号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

大人になった人の話

アニメ映画「機動警察パトレイバー2」の感想です。ネタバレです。

いつか見ようと思い何年経ったのか? やっと見ましたが、経ち過ぎて少し古くなってましたね。

 

押井守さんの作品ですね。うる星やつらの映画第一作でうる星やつらっぽく描き、二作目では自分の感性に寄せて好きにやる人ですね。

そしてパトレイバーも一作目で客が望むパトレイバーっぽいのを描き、二作目でパトレイバーでなくていいじゃん、と言われるものを描く。まあそんな人ですね。

 

これは1993年の作品だそうです。東京でテロを起こす物語です。

たまたまですが、この前見た「残響のテロル」と同じく東京でテロを起こす。

しかしこっちは大人ですね。なぜならテロリストが子供にとって格好良くないからです。大人にとっては人によって格好よく見えるかもしれないけど、大人なので分かるでしょ? と言う事でしょう。

物語も後藤さんと南雲さんの大人達の話だし、戦争について考えろと言う話になっていますね。これも大人です。

パトレイバーでは戦争を考えさせる為にテロ起こす。「残響のテロル」の方はそれらしい理由があるけど、テロである必要が無いような気がする物語です。ネットもある時代で、あんな事が出来る天才ならやりようがあったのじゃ無いのか? と思わせる物語でした。

これはテロリストが大人なのじゃなくて、監督が大人なんでしょうね。私は有名な押井守と言う人が今一なんでそこまで人気があるのかな? と思ってましたが、この年になり、なるほどと思えてきました。

ただこの作品賛否両論あるそうです。パトレイバーでは無いと言う人もいます。だから大人なら何やってもいいと言う事でもない気がしますが、せめて後の世代の人は、この有名な人の有名な作品位参考にしてからテロものを描いてほしかったですね。

 

このアニメの犯人は国民に戦争を実感してほしかったのでしょう。それと同時に官僚や政府に問題がある、だからこそ戦争に対処出来ない。だから初めは少数の人が、しまいに多くの人が死ぬ事になる、と言う事も伝えたかったのでしょう。

そしてこれは押井さんが込めたメッセージそのもですね。現実世界の日本人に向けたメッセージです。

ただ感覚は古いですね。実際に1993年なのだから古くて当たり前なのです。

1995年に地下鉄鉄サリン事件。2001年にアメリ同時多発テロ。ですから今一東京で戦争やテロが起きると信じてないか、実感が無いのでしょう。だからどうも戦争に気を付けろと言いながら、押井さん自身が東京で戦争なんて事を想像できてない気がします。だからか見てるとやってる事が226事件っぽい気がしてならない。だから雪がちらつく冬だったのでは無いでしょうか? たぶん東京のテロで想像できるのが226事件しかなかったのじゃないでしょうか? でももう一回言いますが、この時はしょうがないですね。現実は小説より奇なりです。この時サリン事件も同時多発テロも、リアルに想像出た人はいないんじゃないでしょうか?

なので、全体はちょっと嘘っぽい。テロリストは犯人以外もいた筈なのに出てきません。たぶん監督は、どこか嘘っぽいと自分でも分かってたのじゃないでしょうか?

 

ただ226事件と重なって見える事で気が付いたことがあります。こんなテロに加担する人が日本にはいないと思える事です。私だけではなく日本国民もそう思ってるのではないでしょうか。多くのまともに働いている人は、テロを起こすのが正義だと思わないし、それに加担しても良い事が無いと分かっています。戦前では、軍が勝手な行動をするのが正義だと思ってる人が多かったのです。しかし今は違います。これだけでもこの国は良くなったのだな、と気が付きました。二次大戦前の絶望的な国ではなく、可能性がある国だと気が付きました。これでもまだ希望はあるのですね。

 

そう言えばこの犯人、橋を落としますね。テロで人が(あまり)死なずに東京に影響が出る位の物を壊すとしたら、橋しかないですね。だから良く出来てます。

残響のテロル」の高高度核爆発は電磁パルスで電気機器がダメになるので、病院機器は全てダメになる。例え発電機があってもです。だから人が死ぬ。だからやはりパトレイバー2にはおよばないですね。 

犯人が始め外国で上からの命令で発砲が出来なかった事に対して、宮崎駿さんはあれは自分の判断で発砲するべきだ、みたいな事を言ってました。

しかし発砲出来なかったと犯人が思ったからこそ、お上がおかしいと分からせる為にもテロを犯すので、物語上はあってる。それにあれが少しも自分のせいだとは思わない様な奴だからこそ、こんなテロを犯すのです。これもあっている。

犯人は不倫をするし、格好つけた頭でっかちな事を言ってる。そんな設定もこんなテロをする奴としたらあってますね。だからよく考えられている。

ただ犯人は面白くはないですね。これは宮崎駿さんも言ってたようですが。しかしこれさえもテロリストは魅力的すぎるといけないので、物語上あってるのかもしれませんね。

この映画はパトレイバーの世界じゃないと思う人もいるでしょけど、おチャラけたパトレイバーの世界でも戦争は夢物語ではない、と言う事でしょう。それで本当のリアルな世界でおチャラけて生きてる人にも「戦争は夢、幻じゃないよ」と言うメッセージになるので、これもあっています。

 

あってはいる。言いたい事も難しすぎず良いと思います(物語は難しいけど)。しかし面白かったのか? と言うとどうでしょうね?

大人の作った大人の話ですね。でも大人過ぎましたかね。大人が見てても子供に戻りたいからこそアニメを見てるのだから、もう少しおさえても良かった気がします。

元々の主役の泉が目立ちませんね。これは明るくしたくなかったのでしょうけど、もう少し役に立っても良かったと思います。最後南雲と二人で敵レイバーを倒すシーンを入れても良かったんじゃないでしょうか?

しかし泉が「ただのレイバー好きで終わりたくない」と言う所は良かったですね。

皆大人になっていくのです。だから皆もただのレイバー好きではいけないよ、と言う事です。

 

(おまけ、そうそう言い忘れてましたが、最後犯人を南雲さんが捕まえる時、手を取り合ってましたね。あれは気持ち悪いですね。あれは男の夢ですね。女は何年も待ってはいないですよ。そしてだからこそ犯人は押井さん自身の黒い部分の分身なのです。押井さんが架空の世界で日本に向けて、そしてアニメ業界にも向けてテロを犯していたのです。ロボットあまり出ないしね。そしてそれを南雲さんは受け入れてくれる、訳ないじゃないですか。ここは子供でした)