映画「シェイプ・オブ・ウォーター」感想、ネタバレです。
この作品は「みにくいアヒルの子」ですね。
アヒルではなく白鳥だった、と言う物語なので分かりにくくなっていますが、大事なのは「自分の居場所があり、仲間がいた」と言う事です。
つまり白鳥でなくても良い。コウモリでもトンボでもカでも良いのです。
監督ギレルモ・デル・トロは明らかにオタクですね。
押井守作品が好きらしいし、他のアニメも好きらしい。
もちろんアメリカの映画やテレビも好きだった事でしょう。
wikiに昔の写真が載っていて、太っていて典型的なオタクの容貌です。
それにメキシコ人ですね。
だから色々迫害されている気持ちもあったのでしょう。
だからこの映画には監督の気持ちが入っている。
監督として成功して名を上げ余裕が出来「人と違う事が悪い事ではない」と言いたかったのでしょうけど、そこに誤魔化しが少ないのが良いですね。
つまり人と違う事で上手く行かない事もある(ゲイの老人と黒人の友達)。
しかしそれでも「あきらめるな、自分の居場所と、仲間を見付けろ」と言いたかった気がします。
それと敵の警備主任ですか?
彼も一度の失敗で職を失いそうです。
少数を切り捨てる社会なら、例え多数の方にいても安泰ではない。ちょっとした失敗で多数から少数になり、身を亡ぼす事になる。
「だから少数を切り捨てる社会は、結局みんな安心して生きて行けない社会でしかない」と言いたかった気がします。
映画館の上に住んでるし、とにかくテレビが出て来る。監督が好きだったものでしょう。
そして年代も、たぶん監督の子供の頃でしょう。
半魚人もそうだし、他のシーンもそうだけど、監督の子供の頃の影響が強いように思えます。
初めに言った映画のメッセエージと、これら出て来るシーンも踏まえ、とにかく監督自身の思いを叫んだ作品ですね。だから思いが強く、それが伝わる人には伝わる作品です。
「伝わる人には」と言ったのは、同じ物を感じてない人にはあまり伝わらないと言う事でもあります。なので私はそこまで感動はしませんでした。
そして押井守さんが褒めていたので、流石感性が似ている人だと、進むべき方向が同じになるのだな、と思えました。
ただたぶんこの作品はかなり映画好きな人でないと、どこが上手いかは分からない気がします。だから私には分かりません。
でも私でも少し分かった事を言います。
押井さんが言っていた暴力シーンが出て来ます。なるほどですね。
この暴力シーンは必ずしも暴力を行使しない。敵が黒人の友達の家に行った時です。この時は相手に暴力をしてないし、自分の指を千切っています。しかし明らかに暴力シーンですね。これは「見ている客の気持ちを追い込む事の方が大事だ」と言う典型的な例です。
そしてこれも押井さんが言ってた事がらみですが、どうも始めの方は淡々としていて盛り上がらない。しかし細かなセットと綺麗な絵作りで見てられる作品です。盛り上がらないからこそ、この世界に浸れるのです。押井さんは、この浸れる時間は映画しかない物だと言っていました。たぶんそうでしょう。
盛り上がらない浸れる時間を、どの様に退屈させないかが、この様な映画の腕の見せ所です。この映画は、まあ良く出来た方かもしれません。ただ退屈な人もいるだろうとは思いましたが。
押井さんもデルトロ監督もどっちも、この「言葉では説明できない映画ならではの浸れる時間」にたどり着いたのでしょう。
この二人はとても多くの作品を見て来ただろうから、最後は説明できない物に惹かれるのも分かる気がします。多くを見過ぎるとどれも似たり寄ったりに思え、やり方さえ分かればどれも出来るようになると分かる。だが感性に訴えるのは説明では無理なので、そこに魅力が残るのでしょう。
ちなみに私は「断片は説明できそうだが何重にも深く潜っていて、もはや全体の説明は出来ない位の作品」の方に魅力を感じるので違います。
違いますが、結局「手の届かない物に惹かれる」と言うのは同じかも知れませんね。
この作品は物語の世界に浸れる事も狙っている。
だからこそあまり多くのメッセージ性や暗喩は邪魔になるので、多く入れられない。
なので結構さっぱりした作品だと思いました。
しかしこの作品でやりたい事を優先したら、これであってると思います。
あってはいるし方向性が違うので比べるのがおかしいのですが、日本のオタクの叫び「シン・エヴァンゲリオン」を最近見たからこそ、比べたくはなります。
そして日本の精神的な叫びはとても深い事が分かります。
とても深い内容の精神世界まで来ているのが日本のアニメですね。これはこれで世界を相手に戦えそうな所まで来ている気もします。
ただあまりにも一部の日本人しか理解できない内容な為、世界に打って出ても理解されないでしょう。
だから世界共通な情報で作る必要がある。
今時点でも難しいのに更に「世界共通の情報で作る」と言うのも加わる。無理ですかね?
ただ「手の届かない物に惹かれる」ものです。まだまだ先はあります。やり切ってはいない。
そう思うと、ちょと笑えて来ませんか?
ここで笑える人が、世界を作って行けるのではないでしょうか?