号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

大事なのは「家に帰らせる事」と「賞味期限」

アニメ映画「グリットマンユニバース」見ました。感想、ネタバレです。

大きな要素はネットで皆が言ってるので、私個人の細かな感想の羅列を、ここではしようかと思います。

 

どうもネットを見ると高評価ですね。

ただ「あにこれ」と言う所だと70点台です。

あにこれ」は前から「良い点数付けるな」と思っていたので、今回も納得です(もちろん全てではないけど)。

アニメ通に見せて、トータルで考えると、確かに70点台でもおかしくは無いでしょう。

だから逆にアニメ通でない人の方が、高得点を付けそうです。

一般人に近い方が、高得点だろうと言う事です。

(アニメ通だから厳しい要素と、アニメしか見て無いから緩い要素と、両方の偏りが見られます。なので良いか悪いかは別問題だとは言っときます)

 

そう言うと否定してる様に聞こえるだろうけど、私は全体的には肯定してます。

個人的には80点台は行っても良いでしょう。

これは私もアニメ通では無いからだと思います。

 

始めの「グリッドマン」の時からそうでしたが、面白いのは「肯定的な部分」と「否定的な部分」が混雑してるのが、このシリーズだと思っています。

それがバランスよくまとまったのが最初の「グリッドマン」であり、監督の限界が出てバランスが悪かったのが「ダイナゼノン」でした。

 

良い要素と悪い要素が同じ所にある為「そこを消せばいい」「そこを直せばいい」と言う訳にはいかないので、それが難しく、そして面白くもあります。

だから今回は、細かな要素の話になるのは勘弁です。

 

まず日常パートの事です。

ダイナゼノンの時もそうでしたが、監督はあのアンニュイな雰囲気の、何気ない日常が好きなのでしょう。なんとなくは、分かります。

ただだるい。ちょっと長い。

これを私は「押井守病」と呼ぶことにします。自分が好きな事が、他人も好きだとは限らないと言う事ですし、つまらない日常を延々見たい人は、あまりいないと言う事です(押井さんは、どうも普通の人ではつまらない何気ない場面を、延々見るのが好きなのだそうです)。

たださっき言った様にこれは良い要素もある。何気ない日常の良さが、その後に壊れていく事で再認識されるからです。

それに緩急が付きます。

更に、今の子供には普通の日常が「夢」なのでしょう。アニメ「氷菓」などを見ると分かります。

別にそれを否定はしません。何気ない日常が良いのは分かる。

しかしそれこそ「現実でやれよ」と言う事です。アニメでまで夢見るような事ではない。

ただこれも良い面もある。そう言う普通の生活が出来てないオタクに「いいだろ。じゃあやれよ」と言う背中を押す行為にも見えるからです。

 

これは恋愛要素もそうです。

この手のアニメでは、普通はあんなに恋愛を押さない。

最後の告白シーンをまじめに長々やる少年アニメ(少女アニメではないと言う事)なんて、見た事がない。

あれもオタクの背中を押す行為でもあるので、間違ってはいません。

 

せっかくここまで言ったので、言っときますが、これは物語の終わりを表しています(監督が狙ってるかは分からないけど)。

魅力的なヒロインに男が出来る事は、客を遠ざける行為だからです。

両ヒロインにはっきりした彼氏が出来る。だから終わりなのです。

普通の少年物語で、主人公とはっきり付き合っているヒロインがいる話ってないでしょ? 

くっつくかどうか? をやっている時が面白いので、普通は主人公でもヒロインとはっきり付き合ってない状態が普通です。

それが付き合う時は、物語の終わりなのです。

 

流れからこれも言っときますが、これは明らかに子供用のアニメです。まあほとんどのアニメはそうですが(子供と言っても、日本では20代ぐらいまでは含まれます)。

最近分かって来た事は、子供に見せるアニメは、終わらせないといけないと言う事です。

夢を見させて、その後現実に戻す必要がある。

昔の富野さんは間違っていて、キャラを殺していきました。それでは子供の心が解放されない。

大事なのは最後は大団円にする事です。それでもう悩む事も、心に刺さる事もなくなり、そのアニメを気にしなくなる。

そうする事で、子供を現実世界に戻すのです。

始めのグリッドマン自体がそう言う話です。オタクに「夢も悪くないが、現実に戻れ」と言う話でした。

この監督が素晴らしい所は、それをちゃんと物語上でやったからです。

今回のユニバースでは、皆が気になる要素を、ことごとく解決していきました。これでファンの心が解放される。

しかも、魅力的なヒロインに彼氏ができる事、これも大団円であると同時に、客の心をヒロインから遠ざける要素です。

だからやってる事はあっています。流石です。

しかしアカネは「女友達がいる」程度の納めておくところも流石です。ちょっとファンの希望を残しておく。と同時に「アカネに必要なのは友達」と言う話でも合ったので、話としても筋が通っているのです。

アカネがいる実写の世界を映す事も良い。自然の流れで現実世界を映す事で、不自然にならずに客が現実を思い描けるからです。あれでグリッドマンの世界はアニメだと強く思わせる事も出来る。

旧劇場版のエヴァは無理やり現実世界を映してたので、下手なのです。あれでは客は納得はしない。

それと同時に「現実世界も良いし、アニメも悪くない、そして地続きだ」とも取れます。

現実世界とアニメをつなげる事で「同じ価値があり、距離感を保てばアニメも悪くは無い物だ」と言うメッセージにも取れるのだから、良く出来てます。

 

さてやっと話が少し戻ります。

日常場面が長いと言う事にです。

ユニバースを見てて思ったのが「またビューティフルドリーマーだな」と言う事です。

学園祭の前の日を、都合よく過ごすなんて、ビューティフルドリーマーでしょ?

あれも「現実に戻れ」と言う話だったので、今回も使ったのだと思います。

ビューティフルドリーマーが上手いのは、日常場面でも「わちゃわちゃ面白い場面」か「不穏な空気で何かあるぞ」と言う状態であり、つまり飽きさせない要素で埋めていたからです(こっちも押井守です。やればできる人です。やらないだけだからタチが悪いとも言えますが)。

つまらない日常場面をやりたいのなら、この何か考えさせる要素を裏に入れ、飽きさせないのが必要です。

高畑勲監督の「赤毛のアン」の第一話を見て下さい。あれは完璧ですね。何気ない日常の良さが出ていて、しかし「アンが間違って送られてきた事を知らない」と言う裏がある為、飽きさせない演出でした。

そして初めのグリッドマンもこの要素があったから、つまらないアンニュイな場面が通ったのです。

しかし監督は分かってなくて、今回のユニバースの始めの方は、ただだるい演出が続きました。

 

さっきも言ったよに、ワザとでもあるのでしょう。

つまらないなんて事のない日常から始めて、緩急を付けたいのでしょう。

しかし私は間違っていると思う。これは塩梅の事であるので、伝わりにくいけど、ほとんどの人が「だるい」と思う筈です。

赤毛のアンのように、別に日常をやりながらも、裏に何か要素を置いとく事により、飽きさせない作りが出来る事も知っとくべきです。

 

ただ、もっと「何も考える要素すらない時の、日常が良い」とさえ思っているふしがある。

そうだとしたら、だからこそ押井守病です。ほとんどの人はそれを望んでいない。

もっと言うと、しかし、少しなら良い。

例えば、中盤のブランコのシーンあたりだけにしとくべきです。

この辺はもはや感覚の問題なので、人によったら違うだろうけど、私は気になりました。たぶん他の人も気になるんじゃないのかな?

そして、大体良く出来ているからこそ、細かな問題が目立つのです。

 

話はずれるが、細かな問題が目立たない宮崎駿のすごさが、こう言う所で分かります。

レベルが違うと言う事です。

何気なくやっていて、実はとても分かっている作りが、宮崎駿です。

 

もっと細かな事で気になった所

始めの戦闘シーンでは、下からのあおり映像が多かったです。それは良かったです。

ここで電線越しのシーンが多かった。良く分かってますね。

臨場感を出すには、何か越しの映像が一番です。この基本が分かってない人が多すぎる。

しかし、そうは言っても単調でした。

もっと「ビルの隙間から見える」とか「非常階段からの映像とか」など、臨場感を見せる「何か越しの絵」と言うのは色々あるのに、同じ様な映像ばかりでしたね。

 

何か越しの絵を「実相寺アングル」と言うようです。

実相寺さんは子供の頃、戦争が終わり中国から帰国後、東京都滝野川区に移り住んだのだそうです。今の北区です。

時代が違うけど、私もその辺の生まれなので、感覚が分かる気がします。

東京の空は「すきま空」なのです。綺麗な夕日はまず、何か越しで見える夕日でした。

その辺の感覚があるから、実相寺さんは「何か越しの絵」に魅力があると分かっていたのかな? と思っています。

 

グリッドマンユニバースはこの辺の事を、少しは分かっている様だったけど、まだまだだと思います。

何か越しの良さを知りたければ、素晴らしい夕焼けの日に、東京のあちらこちらから見上げてみて下さい。感覚が分かると思います。

 

この監督は、元の作品の良さが分かり、リスペクトしてオマージュを作り上げるのが上手いのかと思います。

しかしエヴァほどの新しさはない。エヴァも昔は「何々の真似だ」としつこく言われたが、今は言う人がいない。

あれは、真似とは言えないほどの、新しい良さを構築出来てました。

しかしグリッドマンにはない。

これは酷な言い方だけど、せっかくここまで来たので、もっと先もあると言いたいのです。

 

日常パートも、それで成立する位のクオリティはない。つまり実写映画で成り立つ場面ではない。

これもまた酷な言い方だけど、これもこの方向を目指すなら、まだまだ先があると言いたいだけです。

 

この辺の、悪くはないのだけど、そこまで良くは出来てない要素が目立ったのが今作品でした。

これも「大体良く出来ていたからこそ、悪い所が目立った」とも言えるので、そこまで私の印象は悪くはないです。

だけど初めに言った様に「アニメ通なら70点台の点数を付けてもおかしくない、と言うのが、細かな点を見ると分かる」と言う事です。

まどマギエヴァや宮崎作品と比べると、ユニバースは70点台なのも納得すると思うと言う事です。

 

まとめです。

内容的には、グリッドマン自体が作られた世界でありました。

ダイナゼノンもグリッドマンが作った世界である。

と言う、作られた世界であるが「それも悪くないだろ?」と言う内容でした。

これは監督らが「作り物の世界も悪くはない」と言うのを言いたかったのだと思います。メタ的に自分らの好きなヒーロー物やアニメの肯定です。

しかしそれだけの終わらせず、ちゃんと現実に戻す演出をしてたのが好印象でした。

これはアカネが実写の世界に戻るような、皆が分かる要素もそうですし、大団円にして、しかもヒロインに彼氏が出来て、メタ的に現実に戻す要素もそうです。

だからビューティフルドリーマーも入れて来たのでしょう。見ている子供を現実に戻す内容だからです。

ヒーロー物もアニメも基本子供のものです。

その子供に対しての大事な要素「最後は家に帰らせる」と言うのをちゃんとやっている、分かっている作品でした。

「夢も良いが、最後はちゃんと家に帰らせる」これが、この作品の一番の素晴らしい要素でした。

 

ちょっと追加

ダイナゼノンでずっと出て来ない、守るべき三つの大事な事とは、「約束」と「愛」と「賞味期限」でしたね。

賞味期限とは「大事な時はその時しかないから、急げ」と言う子供に対するメッセージです。

これは主人公が告白すると言う場面でしつこく言ってました。六花のあっていたのが兄だから良かったけど、恋人だった可能性だってあるでしょ?

「大事な事は、いつまでも待ってはいないのだから、急げ」と言う事です。

これは別に恋愛だけではなく、その時しか出来な事が多い。それは大人になると分かる。と言う事です。

子供の、ある期間しか出来ないことは多いと言う事です。

それは夢を追う事もそうです。20代や30代になってからでは遅い事が多い。今のうちにやっとけ、と言う事です。

恋愛だけではない、とは言いましたが、恋愛ももちろんそうです。だからそっちも強く押していたが、大人のメッセージとしては正解ですね。

しかし、それでも「もう遅いよ」と思うオタクも多い事でしょう。

だからそれに対してもちゃんとフォローをしておくのが、流石です。

もう遅いと思うかも知れないが、もしかしたらそれだって無駄ではなく、熟成する為の必要な時間だったかもしれない、と言うフォローを入れてます。

だから賞味期限なのでしょう。消費期限ではない。

まあフォローはしても、賞味期限は大事だと言う物語です。

子供に「今しか出来ない事が多い」と言うメッセージを伝える事は大事なのだから、三つ目の大事な言葉に「賞味期限」があるのは、結構深い内容でしたよ。

 

 

書く所がなかったので、ここに追加

分かっている人には何を今さらだろうけど。

「六花ママ見た事あるよなあ」と思ってました。

フリクリ」じゃねえか、そのままじゃねえか。

トリガーって元ガイナックスだしね。

社長の大塚さんってフリクリにもトップ2にも関わっていたね。

しかもこの人、元は高畑勲の下で働いてたのか。

トリガーって若手を育てる、と言う意味もあって作られた、とありました。

なら、今こそ高畑勲の初期の作品をもっと熟考すべきじゃないのかな?

初期、と言うのは、始めの方がエンタメ性と作品性の両方があったように見えるからです。