「映画の感想」という題名だが、見た、とは言ってません。
雑多な感想も含まれます。
主に「グランド・ブタペスト・ホテル」の考察です。
「スパーダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の感想も少し。
米アカデミー賞が発表されました。
長編アニメ賞で「君たちはどう生きるか」が受賞されたようです。
賞とは賞です。良くも悪くも。
別に一番売れた作品でもなく、一番心に残った作品でもない。
賞をとった作品とは、あるルール上で一位をとった作品でしかない。
良くも悪くもです。
だから「君たちはどう生きるか」が取れたことは、別にどうでもいい。
逆に「よくあれで取れたな」と思ってしまいました。
あれは作品ではなく、宮崎駿という人そのものに与えられたようなもの、だと思っています。
残念ながらあの作品は、日本人である宮崎駿自身の周りの話なので、日本人でないと理解できてないと思うからです。
つまり残念なのは、理解されてないけどアメリカで賞を獲った、という事です。
理解されてから賞をとったなら喜びますが、そうでないので残念なのです。
日本人であるみなさんは、ありがたい事にこの作品を理解できる可能性がある立場にあります。それは良い事です。
しかし逆に言うと、日本意外のことは日本人では理解しにくい。
例えば、キリスト教の暗喩だったり、西欧やアメリカの歴史について、そしてその暗喩になると、もう分からない。
だから日本人だと言うのは、一長一短ではあります。
ただ、同じ日本人で、宮崎駿もそうだが、寺山や小津、それに富野に庵野に、そして幾原がいる。
これらの作品を堪能できるので、日本人であるというのも捨てたものではないですね。
さて、この流れから、前から「第二次大戦の暗喩はだいたい理解できそうだが、例えば、第一次大戦などになると、もう分からないだろうなあ」と思ってました。
そしてそれが現実になりました。
ウェス・アンダーソンが今回アカデミー賞で短編実写映画賞をとったようです。オスカー受賞は初めてだそうです。
ウェスアンダーソンが受賞されてこなかったことも含め、やはり賞は賞なんだな、と思います。
賞を取れなくても印象に残る作品は作れる、という事です。賞はとったが誰の印象にも残らない作品とどっちが良いのか? という話です。
ウェスアンダーソンの「グランドブタペストホテル」見ました。考察です。
いや、明らかに暗喩が入っているが、分からないんだよね。
最近は、暗喩考察で毎回「曖昧だ」と言ってるが、今回は更に曖昧です。勘弁です。
これ、明らかに第一次大戦の暗喩は入っている。ここは間違いがない。
でも、だからこそ、私には分からないとは、さっき言いました。
まず恒例の、一番有名な検索で出てくる一枚絵の考察です。
ホテルの全貌を前から映したものですね。
淡い色で誤魔化すのがウェス流なのは、「アステロイドシティ」で分かってました。
このホテル、上が白っぽく、下が赤っぽいのです。
だから、ポーランドかな? どうかな?
誰が? グスタヴがです。
ちょっと戻るけど、暗喩が分かる必要があるのか?
暗喩が分からなければよく分からない映画なら、知っておいた方が良いでしょう。それこそ「君たちはどう生きるか」などです。
しかしこの映画「ブタペストホテル」は分からなくても見れる作りです。だから分からなくてもいいです。
しかし2つ気になりますよね? 最後グスタヴが死ぬのと、妻も死ぬ事です。
これは物語上おかしい。
どっちがが死んで、その余震を残す、というのはよくやります。
しかしどっちも死ぬのは、物語上ない。失敗です。
もしそれをやるのなら、みんな死ぬ事の理由付が必要です。物語メッセージ上の方向性の事でです。
「一人生き残ることの悲しさ」が最後のメッセージである、という前ふりが必要なのです。それがないから、とってつけたかのような死になっている。
だから、ここで暗喩の理解が必要になります。
まずオープニングで昔のピンクのホテルの全貌が出て、その後の寂れた全貌もでる。あとの方は色もなくなり、上の方の階もなくなり、明らかに寂れている。
この絵で「第一次大戦の暗喩だな」と思ったのです。
ブタペストはハンガリーですね。
だとすればオーストリア=ハンガリー帝国の事です。
この国は、第一次大戦後解体されます。そしてハンガリーだけになった状態が寂れたホテルで表しているのでしょう。
で、問題は、だとしたら、グスタヴは何か? ゼロは何か? そしてメキシコのアザがあるアガサは何か?
ここが分からない。
可能性として、
グスタヴは多分ドイツ人に殺されている。
列車を止めたドイツ人は、1回目と2回目の服装が違う。だから2回目がナチス・ドイツで二次大戦の暗喩でしょう(1回目は一次大戦のドイツ。だから敵ではない)。
それにグスタヴは殺されるのだから、ドイツに占領された国かな? と思うのです。
だからポーランドです。
ゼロとアガサがくっつくのだが、それらしいのはチェコスロバキアです。
アガサはプロイセン熱で死んだ、とあるので、これもドイツに滅ぼされた国かと思うのです。
チェコはヒトラーに併合されてしまうので、アガサがチェコかな? 死んだ子供がズデーテン地方か?
そうなるとゼロがスロバキアになる。スロバキアは保護国としてドイツに取り込まれるので、国としたら残ったと言う体です(チェコは保護領であり、併合です)。
もちろん実質はどっちもヒトラーのドイツに取られてるのだけどね。
ただ、アガサのメキシコのアザが分からない。
はじめ、スペインかフランスか? とも思ったが、それだと筋が通らない。
ネットで調べると、メキシコのセルゲイ(セルジオ)という名の人のあだ名は、もれなく「チェコ」になるというのがあったので、そのことかな?(でもセルゲイさんがどこから来たのがわからないけど。ウェスアンダーソンがテキサス州出身だから、メキシコに多いあだ名も知っているとは思うけど)
ゼロがインドっぽいのも分からない。
これもはじめインドかと思ったっけど、やはり他の筋が通らない。
国旗の色か? とか色々考えたが、どうも分かりませんでした。
敵側にまた三人の女がいましたね。アステロイドシティと同じくあれがバルト三国でしょう。
つまり敵側がロシアです。
グスタヴがポーランドなら、一次大戦後ロシアから領土を取り戻してポーランド復活になったので、これであっています。
そして、ヒトラーのドイツにまた占領されるのですが。
今のところはこんな感じの答えですが、どうもしっくりはこない。
これが国ではなく、例えば文化的なもの、映画とか小説とかの暗喩だったなら、もう分かりません。
だから、結局はこれ以上は分からないでしょう。
ただ、これでアガサとグスタヴが死ぬ理由が出来たので、こんな感じの暗喩だとは思うのです。
「文化的な物の暗喩なら分からない」と言いましたが、それこそ「君たちはどう生きるか」の事です。
文化的であり、個人的な事であり、日本ローカルの事なので、外国人では誰も分からない事でしょう。
それが良いとは思えませんが、まあ、そういう映画だと言うことです。
それが米アカデミー賞でいいのか? と思ったという話です。
前人気で、アカデミー賞を取りそうだったのが、
「スパーダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」です。
前作も見てたので「こんなのの続きがアカデミー賞か?」と思ってたのだが、この映画の方を見て思いました。ごめんなさい、と。
こっちのほうが確かに賞に値すると思いました(表向きしか分からない人には)。
ただ問題は「話が途中」だという事ですね。だから次は取るでしょう。
みな言ってるけど、映像がすごいですね。よくここまで来たな、と感心します。
2Dと3Dの間を見事に表せてます。
あれは、日本では無理でしょう。
でも問題がないかと言うと、そうでもない。
良くない「ご都合主義」が入っているからです。
ご都合主義とは「世界の物理法則を、途中で都合よく塗り替える」事です。
娘がスパイダーマンと気がついた父の態度が、明らかにおかしい。なにか言うだろ?
どうしても親子の中を悪くしようという思いから、キャラの態度の方をおかしくしてるのです。
これはアメリカ漫画の「お約束」ではあります。しかし「良くない漫画のお約束」なので、これは踏襲しては駄目でしたね。ちゃっちく見えるからです。
「ケーキを運ぶ」というお約束もしてました。
あれで「中を開けるとボロボロで、文字が悪口になっている」と言うのもお約束です。
これもご都合主義なのですが、こっちはギャグなので、それでいいのです。
問題は、人の心に訴えかける、物語の根幹でご都合主義をすることなのです。
どこでやっていいか? 悪いか? が分かってないから、ステレオタイプから間違った物を拾ってしまったのでしょう。残念ですね。
人の心こそ丹念に描くべきです。
あれでは「くだらないマンガ」からの脱却は無理です。
ただ、物語は単純に面白かったので良かったです。特に後半。
続きが気になります。
他の事で、
「ゴジラ−1.0」が視聴効果賞受賞だそうですね。
金もない国が努力と見せ方でVFXの賞を取れるのだから、すごい事です。
やり方次第で頑張れる、というより、アメリカのやり方が間違っている、と言う事だと思いますけどね。
この作品を悪く言うやつがいなくなりました。
今こそ悪く言うか? もしくは謝るか? でしょう。どっちも言わない人は信用が出来ない人達です。だから人として嫌いです。
オスカーの作品賞、監督賞が「オッペンハイマー」だそうです。
日本公開はまだですが、どうも原爆投下の日本の惨状は映さないようです。
「オッペンハイマーという人物を描いたため」だとかなんとか監督は言い訳をしてますが、そこが嘘くさい。
例えばベトネム戦争を描いた映画があり、ベトネムの戦争シーンは一切映さず、アメリカ国内の政治や社会の映像だけで描いた映画を作ったら、どうアメリカ国内で言われるか?
本当のベトネムを描いてない。わざと美化している。誤魔化している。などと言われ、誰も褒めないでしょう。
「いや、ベトナム戦争の、国内の政治を素直に描いただけだ」と言い訳をした所で、誰も耳を傾けないことでしょう。
結局誤魔化しなんだよ。
オッペンハイマーは後悔していたとかなんとか言って、自分らは事実を見て、悲しき現実を知って、後悔はしたんだ、という言い訳がほしいだけです。
だから、これを見て救われた気持ちになる。懺悔です。
そして懺悔したのだから、もう良いだろう? という事です。
自分の気持を落ち付かせる効果があるだけの、アメリカの嘘の物語です。
美化する嘘の物語です。
だから米アカデミー賞なのでしょう。分かりますよ。
これが賞です。あくまで賞です。アメリカの賞です。
ただ、言っておくけど、逆の立場でも日本は同じことをします。
日本も外国で悪いことをしたことには蓋をして、自分らの不幸ばかり描く場合が多い。
だからアメリカがどうという話ではなく、日本も同じです。日本人が優れているわけでは無い事は言っておきます。
大事なのは、事実では無いということです。
映画としてよく出来ていても、ただの嘘なのは知っておく理由がある。
人の都合で切り取った物であるので、嘘になるのです。
映画は嘘です。
それがノンフィクションであってもです。
そこに作りての気持ちが入って初めて本当になる。
画面から染み出してくる、人の気持ちだけは本当だからです。
だから気持ちがなければ、全てが嘘になってしまうのです。
さて「オッペンハイマー」に気持ちが入っていたのでしょうか?
それは見てから判断します。
「ゴジラ−1.0」も内容はともかく、VFXには監督の気持ちが入っていたと思うのです。それが賞を取る。
「君たちはどう生きるか」も、あれを作り上げるという宮崎駿の執念は入っている。それで賞を取る。
でも明らかにゴジラの人の物語に、監督の気持ちは入ってない。だから悪く言われる。
そして、少年冒険物語を作ろうという気持ちは、宮崎駿には無かったことでしょう。だから文句を言われる。
最後は気持ちです。
人の叫びが滲み出てくるのが、物語なのです。