号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

古くても、良い物は良い

映画「トップガン マーヴェリック」感想、ネタバレです。

 

いや、上手いね。

ある意味、物語のお手本です。

大雑把に見えて、とても細かく擦り合わせている物語です。

もっと前に見ればよかった。

 

youtubeのチャンネルクララという所で、自衛官の元将官三人が、ウクライナの事などを話す、と言う動画があります。

ここでも珍しく、この映画の事を話してたので、聞いてしまいました。

その結果、やる内容が分かってしまったので、今一見る気が起きなかったのです。

しかし見たら、内容が分かっていても面白かったので、想像を超える上手さでした。

 

この自衛官の言ってた事で、覚えているのは「なぜF35じゃ無いのか?」と言う所です。

映画だと、まずGPSが使えない状態だと、説明がありましたね。

F35だと、昔ながらのレーザー誘導装置が付いてないのだそうです。

昔のレーザー誘導は、レーザーを飛行機から当てて、目標から反射したレーザーをミサイルが追って当たると言う物です。だから映画でもミサイルを撃った後でも、ミサイルが当たる瞬間まで、レーザーを照射し続けてました。

今は、地上攻撃だとGPSで勝手に当たるのでしょう。だからGPSが使える状態でF35だと撃った後、勝手にあたるのです(F35じゃなくてもいいけど)。

なので海軍機のF/A18ホーネットだったようです。

(そう言えばトップガンって、アメリカ海軍の話です。空軍ではない。だからF14かF/A18かF35になり、空軍のF15イーグルでもF22ラプターでもない)

 

これが面白いのは、映画として面白い状態を考え、それが成立する設定をこしらえている所です。

古いマーヴェリックが、古い戦闘機乗りの技術を使い活躍するには、この機体とこの状態が必要だと分かっていて、それに合わせて設定を丁寧に決めて行ったのでしょう(F35は映画で使わせてもらえなかったのも、あるかも知れませんけど)。

 

他にも、マーヴェリックが古い人間で、勝手に行動をして、邪魔者扱いを受けている。

一作目で死んだ友の子供があらわれる。

アイスマンも現われる。

昔の女とも、やはり上手く行かなかったが、なぜかこのタイミングで、また出会う。

後三週間だ、と言っておきながら、一週間早まった、と客に緊張感をもたらす。

マーヴェリックは一度外される。つまり全てを失う。

しかし実力で見せて復活する。ここで、嫌な少将の良さを見せる所も分かってますね。軍内部には、敵はいないのです。

最後にF14トムキャットに乗る(離陸しやすいとかの可変翼の良さを出してました)。

など、とにかく始めの方から「分かってるねえ」と感心する所の、オンパレードです。

 

しかし「分かってるねえ」と思うと言う事は「ありきたりである」と言う事でもあります。

しかし「見た事も無い内容」など、もうほぼないのだから、それでいいのです。

しかも、もし「見た事も無い物語」が作れたとしても、それは人生で一回でしょう。

人生で一回しか物語を作らないのなら良いけど、何度も作るのなら、どうしても「見た事がある物で、物語を面白く構築する能力」が必要になるのです。

なので「分かっている」作りのオンパレードなこの映画「マーヴェリック」は、とても感心しましたし、こう言う事を参考にするべきなのです。

 

前作「トップガン」で有名な歌。あれも始めに入れてしまうのが上手かったです。

初めに入れる事で、知ってる人には盛り上がります。

私が感心したのは、しかし「初めしか使わない」所です。

後半も出て来るかな? と思ってたが、確か出て来なかったと思います。

あれは今作には合わないので、あれで止めたのが、とても「分かってるねえ」と感心します。

 

内容的に、懐古主義とか懐古趣味とか、言われる物語になりそうです。

だから前作を知っている人や、歳より、には受けるだろうけど、比較的若い人にはどうかな? と思う内容です。

これは実際に比較的若い人(前作公開86年以降生まれの人)に聞いてみないと分からないのですが、実際にこの映画が受けたのが、結果を表しています。

つまり、ただの懐古主義で終わらず、ちゃんと新しい映画としても、受け入れられたと言う事です。だから、やはり上手いのです。

 

もう一度言うと、

面白くなる内容に合わせて、設定を持ってくる、のが上手いのです。

その設定を、丹念に、細かく構築していったのが分かります。

これが破綻すると「さめる」のです。

だから細かな設定が破綻しないように、本当に気を使う必要があるのですが、これが分かってない人が多すぎます。

細田監督も新海監督も、たのもろもろの現代風の作風の監督は、大体が細かな設定が雑です。だから覚めるのです。

 

細かな設定とは、別に世界観がおかしい、とかの事だけでは無いです。

それをすると、道徳的にどうなんだ? と言うのもそうです。

新海監督の方は、道徳的に「さめる」演出をします。

これも「さめる」設定なので、事細かに構築する理由があるのです。

例えば「天気の子」で未成年の中学生が、子供達だけで暮らすのですが、あれも「そうしないといけない様な設定」が必要だった、と言う事です。例えば親が暴力をふるうとか、見ている人が「しょうがないかな?」と思う様な設定が不足していると言う事です。

 

さて、そんな「マーヴェリック」も完璧ではありません。

気になったのは「考えるな、行動しろ」の所です。

「考え、すぎるな」なら分かるけど「考えるな」は危ない思想ですね。

 

私が思うのは「考えて分からない」のなら「もっと考えろ」だと思います。

もしくは「考えている時間がない」時は「とりあえず行動した方が、まだ正解の可能性が高い」と言う事もあり、こっちを言っているのでしょう。

例えば、切羽詰まった危ない状況で、考えてる時間が無い時は、行動した方がまだいい時が多いでしょう。ただこれだって可能性の問題であり、落ち着いた方が良い時だってあるしね。

 

マーヴェリックで言ってる内容も、実は今私が言った内容を含んだ事だとは、思います。

軍隊で、予期できない時は、とにかく行動をした方が生存率が上がる気もします。

これは逆に言うと、とっさに取った行動で、正解の可能性をあげれるように、日々の練習と知識と感覚を、日々やしなっておくべき、とも言えます。

 

ちなみに、マーヴェリックが墜落してルースターが救いに戻ったのは、間違いですね。

でもこれも上手いのは、助けに来たルースターにマーヴェリックが怒る所です。あれは間違いだよ、と言ってる所が上手いのです。

 

ちなみに、

戦闘機で救いに行っても、別にマーヴェリックは拾えない。

だからヘリを出し、そこから救うと言う話にする。つまり無駄ではなく救いに行った意味がある、としている。

でも結局降りられないのだから、飛行機を墜落させる。

それでマーヴェリックと合えるのだが、この辺の作りも上手いですね。面白くなる内容に繋がる流れが、ちゃんと分かっていますね。

 

順不同で悪いけど、

初めの、マッハ10を出すシーンも、マーヴェリックの状況や性格が分かるし、そこから外される原因にもなるので、流れが上手いです。

外されるから、他の場所での任務になるのだが、だから初めての人達との始めからの付き合いになるのが、物語としたら面白いのです。知っている人達ではつまらないでしょ?

新しい任務に就けるのも、友達が偉い人でいるからと、理由が通っている。

しかも、その友達がアイスマンだ、と言うのも、本当に良く分かってるねえ。

外されなくても、新しい任務につけるだろ? と思うだろうけど、外されるからこそ「もう後がない仕事だ」と言う事になるので、盛り上がる。

これも考えてみて下さい。試験機乗りで上手く行ってた状態から「新しい任務だ」と連絡が来ても、何も盛り上がらないでしょ?

 

とにかく、上手い。

良く分かっているし、良く練られている。

こう言う細かな事が、成功するカギになるのだと、日本の物語制作人は、早く気が付くべきでしょう。

 

 

おまけで追加

岡田斗司夫さんが言ってて分かったのが、プロペラ機のP51マスタングマスタングとは野生馬の事で、だから最後のシーンはカウボーイが彼女を馬に乗せて終わる西部劇にかぶせているのだそうです。

なぜP51にして、空母艦載機にしなかったのか? と思ったのだが、マーヴェリックは陸に帰った、と言う事であり、戦闘と仕事から離れた象徴、と見れば筋は通ってましたね。

ちなみに、マスタングは陸軍機だそうです)