号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

始めから約束されていたもの

サイコパス 3期」見ました。

感想、ネタバレです。

 

最後に第一インスペクターに示されたのが「少し器用なことの出来るだけの凡人のくせに、シビュラシステムを目指した時点で、始めから失敗してた」と言う事です(あくまで意味的にです)。

これが誰の暗喩になってると思いますか?

これこそがサイコパス3の最高責任者への言葉です。

(たぶん狙ってはいない。だとすれば神の思し召しということになるが、もし分かっていて誰かがこの言葉を入れたというのなら、それは素晴らしいですね)。

 

最高責任者とは、方向性を決めた人と言うことです。

それは監督か? 構成か? 脚本か? プロデューサーか? スポンサーか? もしくはそれらの合わさった集合知か? 分かりませんが、誰かが間違いなく方向性を決めたのです。

 

ドミネーターがあまり出てきませんでした。グロいのも出てきませんでした。皆幸せそうに生きてます。これは何か?

あまりにも露骨だったので、そういう方向性で行こうと、誰かが決定したのでしょう。

グロいのが喜ばれないと思ったのか? もしくは子供に見せれないので興行的に良くないと思ったのか? それも含め、外国に売り込むのが難しくなるから止めたのか? 分かりませんが、たぶん金銭的に止めてきたのでしょう。

 

この作りから見たら、金の為の様に見えます。

8話までテレビで、残り3話分を映画でやるやリ方です。

8話まで40分ちょい、残り3話も一つ一つはそれより少し長いくらいです。

しかも内容的に8話分で何も終わりません。

普通は8話で終わり「さらに見たい人は映画でどうぞ」とやるべきです。

しかし実際の作りは、明らかに11話分、つまりワンクール分を作り、最後の3話分を映画の中に人質にしただけです。

つまり馬鹿にした作りですね。

あれ? これで上手くやれたと思ってます?

「最後は映画で」なんて、いつの時代だよ。

 

内容もそうです。上手くはない。

グロいのは、1も2もそうでした。

つまり、グロいのを受け入れた人達が3を見るのに、3から内容を変えてきたのです。

 

続き物をやるのに得なことは、宣伝がいらないということです。

見に来る人は、前の感じだと思い見にくる。

しかし見てみると、明るい未来刑事モノに変わってます。

いったい、何をしたかったのか?

もしそれをやるなら、雰囲気を変えてきたとしても「それでも面白い」と言う物を作れないといけない。

しかしそれは「サイコパスでなくても面白い作品」を作る、と言う事です

前のキャラがあまり出てこない事からも、一から全て作れないといけない。

 

しかもです。前の設定があるが、その受け入れられた要素、つまり面白要素を封印して面白くしなくていけない(グロい要素やキャラ達の事です)。

これは「何も無い所から、一から面白い作品を創る」ことより難しくなる。なぜなら「設定が決まっている」からであり、それが足かせになるからです。

例えば、サイコパス1の時のように、誰も知らない謎(シビュラシステム)などは、もう3から急には作れないという事です。これが新しい世界なら、新しい謎も可能なのです。

何も無い所から「面白い作品」を作るのにも難しいのに、足かせをはめた状態で「面白くしろ」と言うのは「始めから失敗するのは、ほぼ決まっていた」と言う事です。

 

ちなみに、3はグロくない、と言いましたが、大事なのはその中身の方です。

グロいのが好きじゃない人のほうが多いから、グロく無いのは間違っていない。

ただ、そこから醸し出す物、恐怖がないのです。

 

サイコパス1の時は、おかしく、理解も出来ない、しかし能力も高い敵がいます。それがしまいには、免罪体質という、どうすれば良いのか分からない強力な敵だと分かる。

その上世界設定でも、システムに犯罪係数という物で測られていて、おかしな犯人を追っている人達でさえ、しまいにおかしくなっていくのが露呈して行く物語です。

つまり、追ってる人達は、警察側という、明らかに犯人より大きく強い組織のはずなのに、段々見えない何かに汚染されて追い詰められていく、と言う優れた作りです。

その上後半からは、シビュラシステムと言う、完全なシステムだったはずの物が、どうもおかしいと思えてきて、敵も味方もなくなり、おかしな奴らに挟まれた状態だと、主人公たちが思えてくる物語です。

表舞台にいた大きな組織の一員だった筈の警察官が、狭い何かに閉じ込められていく、と言う物語なのです。

この逃げ道がない、閉じ込められた異常な状態を強く表すことの一つが、グロい演出だったのです。

死に取り憑かれて行く事を示すのには、グロい演出が分かりやすいですね。

やれれば他の方法でも良いのですが、それは難しいのです。

 

だからグロい演出がないのが問題なのではなく、正確には、この「閉じ込められて行く恐怖の世界」がないのが問題なのですが、グロいのを捨てた時点で、たぶんそれはもう無理なのです。

 

つまり、なくして面白くするのも出来ないのに、グロいのを捨てた。

ドミネーターなどの前までの面白要素を捨てて、それでも面白い物語を構築するのも無理なのに、それも捨てた。

前のキャラの魅力を超えるキャラ作りが出来ないのに、前のキャラも捨てた。

大して面白くもないのに、映画にして金払って見に来いと勝負に出た。

 

ここでもう一度、第一インスペクターが暗に言われた事を書いときます。

「少し器用なことの出来るだけの凡人のくせに、シビュラシステムを目指した時点で、始めから失敗してた」

 

この物語は、内容よりも、内容が決まる前の段階で、しかも上の人の決定で、始めから失敗してた物語です。

凡人のくせに何でも出来ると思ったやつの、失敗の物語だったのです。

 

さて、内容の事も少し書いておきます。

大して面白くも無いはずなのに、飽きずに見てられます。

つまり、実は悪くはない内容だったのだと思います。

ネタ的には、2と同じくらいのクオリティがあったと思います。

これで、足かせ無く、つまりグロいのも、怖いのもありで作れれば、2と同じ位の面白さは出たのでしょう。

 

そしてこれは前にも言いましたが、1の時は、魅力的ないくつかのよく出来たネタのために、多くはありきたりな見たことのある既成品で出来てました。

それに比べ2の方が、一つ一つのクオリティは高かったです。

ただ2の方は、1のような分かりやすい光り輝く少数のネタがなかったのは間違いが無い。だから一般うけは1より良くなかったですね。

それと、今回3を見て明らかになったのは(2と同じく)やはり「キャラ作りが下手だ」という事と「細かな設定のすり合わせも下手だ」という事です。

 

主人公級の2人のキャラ、やることなす事、なんであんな嘘っぽいのでしょう?

その奥さんも人形でした。だからこの3人は実は人形でした、って物語でも通りそうです。

 

そうみると逆に、虚淵さんだと思いますが、彼の良さも見えてきます。

虚淵さんは、キャラ作りが上手い、わけでも無いのですが、物語の流れに必要なキャラを持ってくるのが上手いのでしょう。

1のキャラは、言ってみれば、何処かで見た事のあるキャラのオンパレードでしたが、しかし物語にはハマっていた。だからトータルでの構成力があるのでしょう。

それに細かな設定も、おかしくないように気を使っていたように見えます。

2や3と比べてみた時に、1の設定の上手さが見えてきます。面白いですね。

 

逆に3はノイズになるくらい雑な設定が見えてきます。

途中やる気がなくなったのかな? と心配になるくらい雑でした。

ロボットが人でも倒せたり、なぜか敵がいつも最後はナイフで戦ってみたりします。

小型ロボットも急に高性能だし、パスを盗んで犯人が簡単に署に入れたり、いつの時代なのだろう?

もちろん、これらが成立する設定があるのかも知れないが、銃の部品を作れたり、タロットを用意できたりする世界なら、敵ロボットが人くらい一撃で殺せるように作れるだろ。

小型ロボットもあんなに高性能なら、人なんかいらないで、なんでも出来るだろ。

敵がいつもナイフで戦うのは、言い訳が出来ませんね。せめて「たまに」そうなる様にするべきですが、そうしないのは、ただいい加減なのでしょう。

主人公の超能力も雑。超能力じゃないと言ってましたが、超能力じゃん。そもそも、いらないじゃん。

つまり、その場面の流れをやりたいが為に、設定の方をその都度変えて来ると言う物です。

人はそれを、ご都合主義といいます。

この、ご都合主義が悪いと分かってない人は、物語を作ってはいけない人です。

 

絵も後半崩れていきますね。

最後8話で持ち直すのかな? と思っていたら、そうでもなく、半分くらい持ち直して終わりました。

まあその後映画では絵は良かったですが、その事も踏まえ、映画があきらかに最後であり、テレビは途中の話なのだ、と言い切っているようにも見えました。清々しいほどの、嫌な奴に見えている事すら分かってない人がいるのでしょう。

 

キャラも中途半端です。

前のキャラを出したくないのなら、出さなければいいのに、微妙に出します。

つまり一貫性がないし、信念も考えもないのでしょう。

昔のキャラの良さも殺してきます。

狡噛は善だがカオス側に落ちていくのが良かったのです。しかし逃げおおせて影で暗躍する。

宜野座も同じに落ちていくが、こっちは裏方に落ち着く。狡噛のように逃げない所が彼らしかった。

なのに、どっちも何事もなかったかのように、普通に政府側で生きている。そこの何処に魅力があるのか? どこに世界観があるのか?

 

話的には、移民問題に、サブプライムローン、AI、裏で賭け事のように世界を操る誰か、など、まあ悪くはないです。

実世界の問題を入れてくるのは、客になんとなく引っかかる物になるので、正解でしょう。

ただ、ちょっとこれも雑だった気がします。あまり分かってない人が無理やり取り入れた様に見えたからです。

これらが物語上いきていたようには見えませんでした。ちょっと上っ面過ぎましたかね?

 

今回もそうだけど、あらためて書いてみると、問題点だらけで、結構辛辣な意見でしたね。

でももう一回言うけど、あまり飽きずに見れました。

だから、ネタは悪くなかったのでしょう。

ただ、大きな枠が、始めからダメだった。

そして、細かな点は、能力的にダメだった。

結果、もったいない作品になりました。

 

自分が出来ないことを理解して、始めて世の中の事が少しは見えてきた事になるのです。

自分が出来ないことを理解してない人には、始めから失敗は約束されていた、と言う物語でした。