号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

本当にほしいもの

なるほどね。お見事です。

 

漫画「タコピーの原罪」、三回目です。ネタバレです。*1

 

漫画の表紙が まりな と しずか ですね。

同じアングル、同じ泣き顔で似たもの同士を表してます。

そして指の糸が繋がり、運命のつながりを感じられます。

 

ではなぜ? そしていつから? この二人が運命で繋がれたのか?

それは、生まれた時にはもう、見えない運命の糸で繋がれてたのです。

 

はっきりした事は書いてません。だからあくまでそう思えた人だけ、信じてください。

 

タコピーの道具で意味がなさそうな「土星ウサギのボールペン」が、実は最後に意味があったと分かる演出でした。

つまりこの作者は「意味がないものは描かない」という事です。

「この設定いらなくないか?」「このシーンいらなくないか?」「東君いらなくないか?」「この言葉いるか?」「この言い方をするのはなぜか?」

という所は、実は全て意味があったのです。やるね。

 

なぜしずかの両親は、ああもしずかに愛情を持たないのか? なぜ東くんの母親も弟には冷たいのか? なぜ弟は兄より劣っているのか? 最後タコピーは「本当にほしいものが手に入るように」と言い残します。チャッピーは生き残った。東くんも兄と上手くやっていそうだ。なら、まりなは?

これら全てが、最後に向かう物語です。

 

東くんはしずかに興味を持ちます。なぜか?

それは、母と似ている二重まぶたであり、他の感じも似てるのでしょう。つまり母の代わりとして興味をもってるのです。

兄もいますね。兄の話をする時も「母譲りの黒い髪で二重まぶただ」と言います。

つまり東直樹くん自体は違うと言う事です。なぜか?

なぜ東くんだけメガネなのか? なぜ弟だけ能力が劣っているのか?

 

なぜしずかは東くんの母に似てるのでしょう?

 

作者はメガネを押しますね。物語上では大した意味もなくメガネを変えたことを、最後東くんが言う。

なぜ東くんは目が悪いのか?

メガネをかけたキャラは、この漫画ではあと一人しかいません。それはしずかの父です。

 

なぜ東くんの母は医者なのか? 物語的に、母が言っていた言葉「医者は失敗してはいけない」と言うためです。

つまり昔、医者が失敗したのです。生まれた赤ちゃんを取り違えたのでしょう。

つまり取り替え子です。誰が? もちろん同じ年の二人、直樹 と しずか です。

 

しずかの親は両親ともしずかに妙に冷たいですね。

それはなんとなく気がついている。この子は何か違うと。

つまり赤の他人の子だったのです(赤の他人の子でも酷すぎると思うけどね)。

それは東くんもそうです。母は何かが違うと、感覚的に思っているのでしょう。

 

だから東くんは兄と比べ能力が低いのです。違う親から生まれた赤の他人だからです。

 

まりなです。この子はある程度は、父に好かれてますね。

それに母も実はまりなを愛していたと分かる話でした。

 

このまりながしずかを森で虐げる時、急に指輪の話をします。なぜか?

これは東くんの兄の時も指輪が出てきます。だから作者は指輪を気にしてほしいのです。

まりなは「私の母にまた指輪を渡す予定だったのに、しずかの母が奪った」と言うような事を言います。

ここで大事なのは「女に指輪を渡すのが、まりなの父の癖だった」と言うことです。

 

ではこの物語で指輪をしている人は誰か?

一人はまりなの母です。

そして、もう一人が東くんの母なのです。

 

東君家は父がいない。最後のほうで母が寝込んだとなった時、父が帰って来ていると言います。だからいなかったのが分かる。

もういないのに、東くんの母は指輪を付けているのです。

兄がいて、弟がいる。しかし「父が同じだとは、誰も言ってない」

昔、父が出ていった後の子が直樹だったかも知れない(本当はしずかの方だけど、直樹を子供と思っていると言う事)。

いや直樹が生まれたので、浮気がばれ、父が出ていったのかも知れない。

父も医者で、頭にきたから隣の子と取り替えてから、出ていったのかも知れない。

とにかく、二人目の子供の父は「まりなの父」でしょう。

 

つまり、しずかの実の母は東くんの母であり、実の父はまりなの父なのです。

 

(指輪やメガネなんて誰でも付けていると思うでしょう。

二重まぶたなんか沢山いると思うでしょう。

しかしこれは漫画です。書かなくてもいい物を描く。しかも物語上大した意味もないが描く。

この作品の特徴から、これはわざとだと思う方が自然です。)

 

最後タコピーは「本当にほしいものが手に入るように」と言います。

まりな と しずか が本当にほしいものは?

この後でまりなはしずかに向かい「返してよ。私の家族を」と言います。

そう、大事なのは父や母ではなく「家族」なのです。

この時にペンが光り、魔法が起こる演出です。

 

まりなは本当の家族を手に入れたのです。

それは姉妹、しずかです。

そしてしずかもやっと本当の家族を手に入れた。まりなです。

だから最後、この二人が一緒にいて終わるのです。

これがこの二人が「本当にほしいもの」だったのです。

 

東くんの方は、実の親兄弟でないのに上手く生きていけてる。

この辺も「血の繋がりだけが全てではない」事を伝える役なのです。こっちも忘れない。お見事です。

 

本当にほしかったもの、家族を手に入れるお話でした。

 

(追加、そう言えば原罪とは、罪を犯したアダムの子、と言うのが一般的です。罪を犯したまりなの父の子、の二人の物語なのですね。生まれた時から呪われた子達、でもあるのです。やるね)