号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

失敗の歴史

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す、奢れるものも久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、猛き者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。

この始まリ方、確かにしびれますね。

 

アニメ「平家物語」感想です。

 

私は学校教育が嫌いだったので、教科書に出て来る物はもれなくダサいと思ってました。

だからこの有名な平家物語の一説も気にしてませんでした。

今回改めて考えてみたら、なんて格好いい始り方なのでしょうね。

確かにこれは何百年たっても人の心を寄せ付ける事でしょう。

 

今回アニメ化された平家物語、監督が山田尚子さんで、脚本が吉田玲子さんだそうです。

この人達の作品で私が見たのが「たまこラブストーリー」です。これが良く出来ていたので気になって今回見ました。

結果から言うと「うーん、どうだ?」と言う感じです。たまこラブストーリーの様な振り切り方が無い。

これは得意分野では無い物をやった為に、こなれて無かったように見えました。

 

オープニングを見れば分かると思いますが、まるで連続テレビ小説をイメージできる様な絵作りです。

どうみても歴史もので軍旗物だとは思えない作りですね。これはわざとでしょう。

つまり話は昔だが、やってる事は人の話で、人生の話だと言う事です。

ここでやっている事や出てくる人を、現在の人に変えて、内容も現代風にしても通るような感じにしてますね。

(例えば、まるでセブンイレブン物語のようでしたね。伊藤さんが作り、鈴木さんが繁栄させ、鈴木家が追われていなくなる話です)

だから戦闘シーンとかをあまりやる気がない。有名な、義経が急な坂(崖?)から馬で降りたところなど、絵もないくらいでしたね。

これはエンディングもそうです。だからなぜかラップの様なものでした。あれも昔話にしたくなかったからでしょう。現代にも通じる何かがあると思わせたかったのでしょう。

 

で、だとしたら中途半端です。

クソまじめに流れが分かるように、言葉で歴史の流れを説明します。

本当はそんなものは全てカットしてしまって、やりたかった「人の話」に全てを注力するべきでしたね。

大河ドラマなら良いけど、時間も無いのだから、割り切ってやりたい事をやるべきでした。

そしてこの監督たちが得意な方向に全て持っていくべきでしたね。理想はね。

 

ただそうもいかないのも分かります。

それをすると「何やってるか分からない」と文句が出るので、しょうがない。

ギリギリ話の流れが分かるように、入れるべき所は入れてたので、健全な作りだとも言えます。

 

ではどうすれば良かったのか? ですが、正直言うと無理です。

だからこそ「高畑勲平家物語をやってくれてたらな」と思えて仕方が無かったです。

 

良くある歴史もので、戦国時代ものがあります。

これは皆がやり過ぎているので、わざわざ細かな時代の流れを描かなくてもいい物になっています。

誰かが一度やってしまい、客が大体の流れが分かっていれば、もうまじめに細か流れを言わなくても良いのです。

 

高畑勲さんは昔から平家物語をやりたかったようです。

かぐや姫の物語」もやる前は「平家物語」をやりたかったそうです。ただ絵を書く人に「人を殺す話は書きたくない」と言われてしまい、ダメになったようです。このあたり戦闘シーンだけ他の人が書くとか、何とかならなかったのかな?

いやー、高畑さんがどう描いたのか? 気になりますね。見たかったです。

しかし「かぐや姫」の前に「平家物語」なのだから、元々やりたかったコンセプトがこれではっきりします。

つまり「失敗した人の歴史」です。

人の失敗から何かを学ぶ事をやりたかったのでしょう。それを平家物語をやりたかった事から確定します。

実際に作った方の「かぐや姫の物語」もまた、失敗の物語だったと言う事です。

さらに「火垂るの墓」も失敗の物語です。高畑さんは「少年の行動があってるかも考えてほしい」みたいな事を言ってました。

 

さて前に高畑さんが平家物語をやってくれていたら、同じ事をする必要はなくなります。

だから今回の山田さん吉田さんの平家物語は、もっと偏った事が出来た筈です。

やりたかった事に全力を持っていけた筈です。それが見たかったですね。

 

未来も過去も分かる「びわ」を主役にそえる。

語り伝えて来た人達の象徴です。そして物語の未来も過去も分かる、私たちの事でもあります。

だからこそ、そのままやるより分かりやすく、乗りやすく、殺伐とした雰囲気を消す事にも役立っていました。

ちょっといくら何でも、人も死んでるのに話がのほほんとし過ぎている気はしましたが、やりたかったのが現代にも通じる人の話だとしたら、これであってると思います。

細かな演出も雰囲気が出てたし、一話時点ではかなり良くやってたと思います。

 

しかし最後に来ると、何をしたかったのか分かりずらくなりました。

この辺も、あくまで元の平家物語を変えないでやったからでしょう。

もっといじくって自分の得意分野に持ってきて、山田吉田の平家物語にするべきでしたね。

 

話はずれるけど「盛者必衰の理を表す」と何百年も前に言っていて、しかもずっと有名な文ですね。

なのにいつの時代もこの事を忘れているのが、人々です。

必ずいつか何であれ衰退していくと言うのを、忘れてはいけませんね。

「偏に風の前の塵に同じ」で締めくくられます。

所詮人など塵の様な物で、風が吹けば吹き飛び、何もなくなると言う事です。

しかし塵は飛んでいくが、どこかに落ちるのです。

そして小さな粒であるが残って行く。その事もこのアニメの最後は語っていたように思えました。