号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

「運転手さん、伏線~回収まで行って下さい」

アニメ「オッドタクシー」感想です。ネタバレです。

 

上手いですね。しかも丁寧です。

伏線、回収とはこの事だ、と言う手本ですね。

 

前半を見ていて思ったのは「昔はこういう普通の生活で起きる、ちょっとした事件ドラマってあったよな」と言う事です。

身分を偽って好きな女にアプローチする、とかそれで借金をして借金取りに追われるなんて、昔のドラマはあったなあ、と思います。

それに加え、今風なのも付け加えています。SNS依存とかゲーム依存とかです。

そこに会話劇な事もにおわせる様にラジオで漫才師も入れる。この塩梅が絶妙ですね。

今一売れない漫才師の話に、売れないアイドルの話、この辺のからめ方も良いですね。

特に、普段の生活でありそうな事なのがいい。

皆も自分にありそうと思えるか、身近にいてもおかしくない人達の、ちょっとした人生の問題を表す。

こんなドラマ無くなりましたね。それに時代を新旧織り交ぜてるのがいいです。

 

漫才師が係わっているから、お笑いが好きな人が脚本家をしてるのでしょう。

そしてだから面白い設定が分かっている。

お笑いで良くある面白い設定とは?

それこそタクシーですね。タモリさんが番組でタクシーを模して話してましたね。客と話す状況を作れる。だから会話劇になる。そして不特定多数の人と係わる。だから巻き込まれる話に出来るのです。

それとよくあるのが病院です。このアニメではそれほど病院自体の場面は大事では無かったけど、病院はコントの定番ですね。

それと居酒屋です。これはコントと言うより、バラエティーで居酒屋を模したのが良くありますね。ここもちゃんと抑えている。

それに警察とヤクザ、これもお笑いの定番です。拳銃を突き付けるのも定番です。

ドリフ等では、風呂(ここではサウナ)やアイドルの楽屋、等もありましたね。基本が分かってますね。

これらのお笑いの定番は、面白くも出来るし、会話が弾む場面が作りやすい、と言うのが表明されている設定です。だから間違いがない。

あと無いのは「お葬式」位でしょうか? これは設定に合わないので入れなかったのでしょう。

 

普通ならこれらの要素をいくつか入れて満足してしまいますが、それを「これでもか」といくつも入れてきました。

言えば簡単で当たり前に思えますが、意外と難しいと思います。つまりネタが思いつかないのが普通ですし、途中で「この要素で成り立つだろ」とあきらめてしまうのでしょう。

それをここまで仕上げたのだから、製作者は見習ってほしいですね。この位ねって作品を作るのが基本だと思います。

その中で第四話「田中革命」の回は素晴らしいですね。とても練られているし、センスがある。台詞がやり過ぎないし、大げさすぎない。この塩梅が難しい。

男が「いや嘘だ」なんて言う所がよく出来てます。これで支離滅裂な所があると印象ずけられるし、不安定さが人と言う物のリアルさを増します。このなくても成立する言葉「いや嘘だ」を入れるこのセンスの良さ、しびれますね。

 

とにかく前半は上手さとセンスの良さと頑張りが見えます。

同じような感じを受けたのが「おそ松さん」です。あっちもセンスと頑張りが光ってました。

しかし「おそ松さん」の方は、数話見て挫折しました。面白いけど、見なくても良い話なので、見てられないのです。

ではオッドタクシーとの違いは何か?

それは物語があるか? ですね。物語があるから次が見たくなる。

おそ松さん」はコントや漫才と同じです。私はコントも面白くても続けては見たくありません。物語があり続くから見たくなるのです。

もちろん「おそ松さん」は「おそ松君」が元であるから、あのコント調にするしかないのはしょうがない。やはり原作が無い方が色々出来ていいですね。

 

ただ後半はどうするのだろう? と思って見てました。このセンスとネタは続かないだろうと思ったからです。

そこは犯罪物にしてきましたね。それにミステリーを足してくる。これも正解ですね。

こうすると物語を面白いままで長くするのが楽になります。だからこれでいい。

この犯罪物にする所も、探偵ものとか、素人が犯罪に巻き込まれる物とか、昔は良くあった気がします。

今は「普通の生活を送ってたのが、一本道を間違えたように、裏の世界に巻き込まれる作品」って無くなりましたね。残念だと思ってたので、こんな所で見れて良かったです。

 

ただ後半の方が普通の物語になってきました。センスとネタの枯渇です。

でもしょうがない。人は完璧ではないので、出来る範疇で普通のミステリー調にするのは、良い事だとは思います。

 

キャラを動物にするのも良いですね。

こうする事で「物語と会話で勝負する作品」と分かるからです。

映像では勝負はしないと言う事です。

しかしだからと言って手を抜くわけでもなく、お金がなかったわけでもないですね。

雰囲気に合わせた、意外と凝った映像だったと思います。この辺も見事ですね。

しかも動物キャラを、ただそれだけにしない。ちゃんとそこにも意味を入れて来るのだから、わかってるねえ、と唸ってしまいますね。

 

実は見る前から「最後に驚きがある」と言う事は感想で見てました。

もちろん何があるかは知りませんでしたが、疑って見ると作品は良くないですね。

これは「シックスセンス」と同じです。「何かある」と言われなければ気が付かないが、疑って見ると分かってしまいますね。

始めのオープニングの猫が家にいるのだな、と分かってしまったし、途中で動物キャラもそう見えてるだけか、と分かってしまいます。

見た人も見返すと、動物キャラの理由のヒントになる台詞をちゃんと途中に入れてますよ。

それに漫才師の名前が「ホモサピエンス」です。これも人がいる世界ですよ、というヒントです。

 

さて、褒めてばっかりだったので、気に入らない所です。

やはり最後ですね。

あの子が犯人なのも分かる内容でしたが、あれをすると物語の印象がブレますね。

せっかく、古い作品の良さに新しさとセンスを加えて出来た作品だったのに、あれでは二流ミステリーの印象しか記憶に残りません。

人間の良さ悪さ、強さ弱さを出したのに、感情を持たないモンスターが最後を飾る。

あのモンスターの行動は人ではない。だから人物語から離れてしまっている。

まあ人型になり、人が一番のモンスターだ、と言う事かも知れませんけど。

ただそれでも最後で印象がブレました。

人情物で終わって良かったのじゃないかなあ?

そこまでが良く出来過ぎていて、欲をかきましたね。残念ですね。

 

まあそれでも映画をやるようなので期待は持てます。

ただね。あの子がどうなるかをやるしかないでしょ?

そうすると物語が感情を持たないモンスターっ子を中心にするしかなく、それなら別にオッドタクシーでなくても良いのです。

さて、どう持ってくるのでしょうか?

 

物語の基本は人を描く事。

その基本はもう昔にあったと言う事です。

それを元に練って、今風に見立て、やり通すのが正解だと思わせる内容でした。

年よりは「思い出してください」と言う事です。

制作者には、今一度参考に出来る作品だったと思います。