号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

今季アニメランキング一位

アニメ「王様ランキング」三話まで見ました。感想、ネタバレです。

「感動ポルノ」とは? の事も書きます。

 

上手いですね。良く出来てます。

私もそうでしたが、絵柄で見ない人が多いでしょうけど、一度は見た方が良い作品です。せめて2話まで見て下さい。

 

元の漫画があるようです。そして売れた漫画だそうです。

だからそもそも元が良く出来ているのだろうけど、どうもアニメの監督と脚本も良くやったようです。

原作漫画を知っている人の意見がネットで出て来ますが、ほぼ褒めてます。しかも細かな所は変えてきている作品だそうです。

良く出来た人気がある元の漫画がある作品で、少し内容を変えて、それで褒められる作品なんてまず無いですからね。だからかなり上手いのでしょう。

Wikiを見ても、監督がどんな人かは分かりませんでしたが、シリーズ構成の人の事は書いてありました。

岸本さんていう方で、一時期ジブリにいたとか。そして脚本家としたら遅咲きですね。しかし今40代半ばだろうけど、この位じゃないと良い作品なんて出来ない気がします。(将来、誰かが若い人に「脚本とは」等と全て教えれば、若くても出来る日が来るかもしれない。しかし他の人間として知らなければいけない事は年を取らないと分からないので、結局未来においてもこの人位の年じゃないと無理かもしれない)

この方、今後公開予定の「鹿の王」の脚本もやってるようです。じゃあ「鹿の王」も期待できますね。

 

さて、面倒くさい事から言っていきます。

この作品、内容も絵柄も絵本みたいですね。そもそも原作者が絵本を作りたかった人のようです。だから絵本的な良さをよく知ってる人に見えます。

そして内容は、雑に言うと「感動作品」に分類される、と言えば分かりやすいと思います。

だからか、ネットの感想で「これは感動ポルノだ」と言う人もいましたね。

なので感動ポルノとは何か? このアニメは感動ポルノなのか? そして悪いとしたら何が悪いのか? を書いていきます。

が、その前に皆が「感動ポルノ」と言う事から想像される悪い感覚、それがこの作品にはあると思ってもしょうがない作品だと言う事は言っておきます。私も「この作品はギリギリだな」と思い見てました。ただ「ギリギリセーフ」だとも思いましたが。

 

そもそも「感動ポルノ」って造語はなんなのか?

もちろん造語なので、はっきりした意味は決まってないでしょう。

しかし多くの人の感覚で、大体一つの答えが出そうな言葉ですね。

「感動させようとする物語で、良く無い事をやっている作品」と言う意味で、だいたい世間で定まっている言葉だと思います。

そうなると、「感動ポルノ」の「感動」はそのままの意味でしょう。

では「ポルノ」の中に「良く無い事」と言う意味が入っていると言う事です。

しかしそもそも「ポルノ」と言う言葉自体に悪い意味はない。例外として、宗教上ダメな国等では悪い意味ととっても良いけど、日本では違います。

もちろん「ポルノ」に関係する業界などで、良く無い事が絡んでくる可能性が高い事は認めます。しかし日本において「ポルノ」自体が悪い事ではない。合法です。

つまり合法であり、基本は悪くはないポルノ業界の人を馬鹿にしてる言葉ですね。

ネットなどで「感動ポルノだ」とコメントする人は、まるで自分が正義かの様にふるまう人が多いですが、「ポルノ=悪い事」と決めつけている事自体、差別だと分かって無いのでしょう。

「感動ポルノ」は差別用語であり、しかも流行っているからと耳あたりがよく聞こえる造語を使っている事自体に気が付いてない人です。正義でも何でもない事に気が付きましょう。

 

ちなみに私は伝わりやすいので、今後も「感動ポルノ」と言う言葉を使って行きます。

ただこの言葉自体は好きではない事は言っておきます。

そしてだからと言っても「私は必ずしも正義ではない」事も言っておきます。ただ事実だと思う事を言っているだけの人です。

 

言葉自体は今言った事だとしても、では「感動ポルノ」と言われる物は何が悪いのか?

単純に狙いすぎていて気持ち悪いのでしょう。

つまり感動できるように狙っているが、感動出来ない。

それは「狙ってるのが分かる分、なお更ひくので更につまらなく不快に感じる」と言う事だと思います。

では今回のアニメはそうだったのか?

さっき言ったようこのアニメは結構微妙です。だから私は「良くない、と思う人がある一定数いてもしょうがないだろう」と思っています。

しかし全ては結果からです。多くの人がどう思ったのか? 感じたのか? が大事ですね。

このアニメの感想を見ると、「感動ポルノ」だと思わない人の方が多そうです。なら結果から、このアニメのやり方は悪く無いのでしょう。

 

では多くの人が「感動ポルノだ」と思わなければいいのか? 問題があります。なんでも例外はあると言う事です。

それは「まるめこんだのか?」と言う事です。一瞬それなりに感動させる事は、結構できるものです。

盛り上げ、キャラに叫ばせ、泣かせ、良い音楽にのせれば、それなりに感動しそうなものにするのは簡単なのでしょう。しかしそれだけでは「まるめこんだ」だけです。

つまり一日後どう思うのか? 一年後どう思うのか? 子供の時見て感動したのを10年後大人になり見てどう思うのか? と言う事です。それでも感動出来たのなら本物でしょう。

逆に後で「なんであの時、感動したのだろう?」と思えたのなら、それは偽物です。詐欺なのです。

そして詐欺は後で頭に来るし、大体は悪影響が出ます。本来感動しない物で感動したと言う事は、感動しないような偽物を、良い物の様に勘違いしてしまう行為だからです。

例として、前に言いましたが、アニメ「天気の子」で男の子が「これ以上何も望まない」みたいな事を言うシーンがあります。ここで盛り上げて来るので、一瞬感動しそうになるのですが、この子は中学生で家出した子です。しかも家に何か問題があった訳でも無いのにです。しかも好きな女の子も中学生だけで住もうとしている。その子らと今の様に生きて行きたいと言う様なシーンです。いやダメだろう。もう数年待てば家から出て行けるのだから、待てばいいだけです。ただ子供が無茶して好き勝手してるだけの話で感動させて来るアニメでしたね。そしてこれに感動した子供は、家出しても上手くやって良ければ正解だ、と感じる事でしょう。未熟な子供の背中を危ない方向に押す、不気味なアニメでしたね。

嘘だ、偽物だ、と後で感じたのなら、良くないと思う内容だったと言う事です。

言ってみれば「まるめこみ感動詐欺」と言う奴でしょう。

アニメ「王様ランキング」は、まあ微妙ですが、そんなに騙されたと将来も思わせない作りな気がします。元の漫画も数年前に流行っていて、ネットで文句を言う人があまりいないのでたぶん大丈夫だと思います。

逆に「天気の子」はかなり批判的な感想もネットで出て来ます。やはりダメだったのでしょう。

 

では多くの人が長い間をおいても感動出来ればそれでいいのか? 問題です。

感動させる実在の当事者がいる時は、その人らの感情や影響も考える必要がありますね。その人らが全体から見ると少数であってもでし、大体少数です。

「24時間テレビ」ですね。この番組では障がい者が出てきて、皆を感動させようとします。だから良く叩かれますよね?

障がい者を感動させる道具に使って無いのか? 問題です。

ただこの問題は難しいですね。一つの答えは出なそうです。

まずは単純に障がい者に聞いてみる事が早いです。良いと思うのか? いやなのか? です。

どうも噂では「24時間テレビ」の事は、障がい者は「あまり気持ちのいい番組では無い」と思っている人も多いようです。あくまで噂ですが。

ただ、だとしても世間に知らせる必要はある。世間に実情を知らせ、共感させる事や、なれさす事も大事だと思う。それが障がい者の利益になるからです。

ただ世間に知らせる為、と言っても多くの障がい者がとても不快になるのなら止めた方がいいのかも合しれない。

しかし障がい者に利益が大きいのなら、ある程度の不快もしょうがないかもしれない。

この辺の間を模索するのですが、それの正解は無い。これは質の問題では無く、量の問題だからです。

はっきりしないからこそ、気を付けて状況を観察しておく必要があると言う事です。

「王様ランキング」でもしゃべれないし聴こえない子が主人公です。これはどっちかな? 個人的にはこの位は許しても良いのじゃないのかな? と思います。この程度で規制していたら何も伝える事など出来ないからです。ギリギリまで情報は規制しない事が大事です。ちなみに「放送禁止用語」は私は嫌いです。言っても良いけど「その言葉は悪い意味だから使ったら馬鹿だと思われますよ」と言う人が別にいる世界の方が、健全な社会になる事でしょう。

 

結果私は、アニメ「王様ランキング」は「感動ポルノ」と言われるものでは無いだろう、と言う意見です。

 

長くなったので「物語の作りの上手さ」は簡単に言います。

 

まず絵本の様な絵です。おとぎ話です。だからいいかげんな世界で通る。

リアルな世界が出来ないのなら、誤魔化しこの様な世界にするべきです。

「天気の子」もそうですし、細田作品もそうですし、「残響のテロル」などもそうですが、出来ないのならリアルな東京など描かなければいいのに、と思えてしょうがありません。これらも誤魔化したファンタジーとか近未来ならもっと評価が上がった事でしょう。

リアルな世界だから細かな配慮がないと「ここはおかしくないか?」と思われ、それがノイズになり物語が不快になるのです。

 

ただ、おとぎ話も良い事ばかりではない。

絵本の様な世界で、リアルさから離れたら描ける事が減って行きます。

ボッチが高い塀から飛び降りれる。なら高い塀から落ちる恐怖は描けない。

ヒリングが治癒の魔法の様なものを使う。なら怪我の恐怖も薄くなります。

ボッス王が昔村を救ったシーン、この絵柄だと恐怖心はないですよね? ベルセルクの作者が同じシーンを書いていたら、恐怖心を描ける筈です。

 

と同時におとぎ話の良さもある。

これは絵本でもそうですが、細かな事が雑になるからこそ、大きなもので勝負をする必要が出て来るし、横目に触れずそこに注目も出来る。客も作者もです。

つまり面白い物語自体で勝負をしないと負けであり、だからこそそこだけの注力できると言う事です。

絵が萌絵だったり、良く出来たSF調だったりしたら、それだけでそれなりにやっていける。だから逆にそこだけに力を入れる作者がいますね。

だからこのアニメは物語だけで勝負をしていて、しかも上手く出来ています。

 

ただ物語が上手く行っても、出来る事も限られてくるので、終わりは早い。いや早い方が良い。長くしないでほしいですね。「ワンピース」は訳が分からなくなってますよね? あれな長くやり過ぎて物語自体が枯渇している典型です。

 

このアニメ、感動シーンだけに意識が行きがちですが、その他も良く出来ている。

謎や考えれる事をずっと何個か置いてある物語です。だからあきないし気を引けるのです。

話の終わりもちゃんと次が見たくなるあたりで終わっていて、良く出来てます。

 

人の性格も単純にしないで、少し幅を持たせてますね。ただ良い人や悪い人と言う記号ではなく、一個人の中の性格の多様さや不完全さを描こうとしてます。

 

細かな配慮も忘れない。まあ配慮が行き届いているかと言われたら、どうかな? と思えるが、かなり気を作った作りなのは間違いがない。この細かな配慮が足りない物語が多い中、かなり好感が持てますね。

カゲが小さな子供の頃、リンゴをくれと言うがくれない。だから盗って行くのですが、そこに自分の心の支えであり唯一の持ち物、馬のおもちゃですか? を置いて行くのです。これで悪い事をする気が無いのが分かる。良い奴なのが分かるのです。

カゲを売ったおじさんが最後死ぬ時涙を流す。これもただ死ねばいいのに余計なシーンになりそうだけど「悪いだけの人はいないのだ」と言う物語だと分かるし、これでちょっとした人の深みも出るのです。

カゲがボッチの味方になると言うシーン。ボッチが泣きます。これは泣いて感動を誘う良くないシーンになりそうです。しかしボッチは泣き顔は他人に見せないと決めている子だと言う前振りがある。ボッチは笑おうと頑張っているが、それでも泣き顔をカゲには見せている事で「弱ささえも見せれる信頼できる友が出来たのだ」と言うシーンになる。泣く事に他の意味を持たせる事で、ただのお涙頂戴シーンにならない様になってたのです。

 

ちょっと気になったのは、主人公ボッチのキャラが弱い所です。

悪く無いのも、頑張っているのも分かる。でも金持ちの坊ちゃんです。それが王になれなくても「だからなんなんだ?」と思える作りです。

定石なら、この主人公ボッチに乗れるように、良い人シーンを入れるべきでしょう。

それがない。だからボッチのキャラが弱い。キャラが弱いから「話せない聞こえない事で、安易に感動をさせようとしてるのか?」と思われるのです。

ただこの辺の要素は、まだ初めだから温存している可能性もある。

だからカゲが出て来る。2話まではカゲの方が主人公の扱いですね。客はカゲの方が乗れるでしょう。

しかしこれでボッチとは逆のバディーが出来上がる事にはなる。二種類逆のキャラがバディーになる事で、助けあいの物語の基本が出来上がるのです。

これらの事から、カゲの感動シーンが2話で早々出て来るのが分かる。

ボッチはキャラが弱いから、キャラが強く皆を乗せる者、カゲを出し、それがボッチを認める事で物語としてバランスを取っているように見えます。

物語としてもボッチの穴を埋めるのがカゲなのです。

さて今後はどうなるか知りませんが、今後でボッチのキャラが強くなれば完璧ですね。今はカゲの方が主人公の器なので、このままだと作りが上手くないだけです。これでボッチもカゲに並ぶ客に応援される物語になれば、今までは完璧なふりだった事になるからです。

 

最後に個人的な感覚の話です。

「一人になった子供がすがっているおもちゃを持っている絵」に弱いです。

だからカゲが一人になりおもちゃを持っているのを見て「それを止めてくれ」と思い見てました。

気持に訴えるのに単純で効果がある分「汚いなあ」と思えそうな絵ですね。でもこの絵に弱いので私では勝てません。もう死にそうになるので「止めてくれ」と思えました。

単純だけど「この単純な事がちゃんとわかっている人が作っているのだな」とは思えました。基本が分かっている事が大事ですね。

そしてだけど「汚いなあ、ずるいなあ」とあまり感じませんでした。

演出やキャラの感情などをやり過ぎないとか、妙に時間を伸ばし過ぎないとか、音楽で誤魔化そうとしないとか、細かな配慮が上手かったのでしょう。原作か? 脚本か? 監督か? 全てか?

とにかく基本を知っていて、それを上手くやり通す力がある様に見えてます。

このまま最後まで行ってほしいですね。