号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

夢の世界からの帰還

アニメ「リーンの翼」感想です。ネタバレです。

 

結局何か響く作品を作れるのは、富野由悠季か。

あとは宮崎駿高畑勲とかになる。

そして下の世代、イクニさんですね。

最近の庵野さんも面白そうだし、押井さんもあるけど、この二人はメッセージありきでは無いですね。それ自体は悪くはないけど。

細田さんも今後は面白そうですが、この人はもっと現代的です。つまり病んでない。

片渕さんもいいけど、良さを引き出す側の人のような気もします。

高畑さんも良さを引き出す人だけど、この人は我が強い。つまり自分色に染めあげる。

宮崎さんもメッセージありきな作品の方が少ないでしょうけど、この人も我が強い。

メッセージありきで、我が強く、病んでる人。もしくは病み上がりな人って富野さん位ですかね?

だからメタ的な視線で見る物語は、富野さんが一番面白いかもな、と最近思えてきました。

 

しかし前にも言った様に「言いたい事が多くなると、面白さが少なくなってくる」と言う事です。

だから言いたい事があるのならおさえるべきですね。そして面白さに力を向けるべきです。

このアニメ「リーンの翼」もあまり評判は良くない。

それにネットの感想で「何を言いたいか分からない」と多くありました。

たぶん、長い時代富野さんが考えて来た事を出すので、数話の話だと無理なのですね。伝わる訳がないですね。

これは富野さんの作品の事をよくよく考えてきた人で、日本の歴史も考えてきた人が、メタ的視線でみて分かる内容ですね。そして分かる人だけ面白い作品です。

普通に見たら、ただただ分かりにくく、面白くない気がします。

逆に分かると面白ですね。この物語と言うより、メタ的な富野物語として見てです。

 

迫水と言う元特攻隊員が異世界で作った国がホウジョウ国ですね。

ご丁寧に、神奈川県あたりを治めてた昔の大名の名前からとったと言ってましたね。

wikiによると、富野さんの出身が神奈川県小田原市ですね。今の小田原市に北条氏の城で難攻不落と言われた小田原城がありましたね。

つまり迫水が富野さんの分身だと言う事です。もちろん部分的にでしょうけど。

 

戦争で死ななかった男が、願った訳でもないのに夢の国に行き、そこで才能を発揮して自分の国を作ったと言う話です。

そこで昔の思い出でおかしくなり、あの頃に帰りたいと願い、内ゲバを始める物語です。

これが富野さんでなくて誰だと言うのでしょう?

 

夢の国で戦ってたのは、かつての同志ですね。つまり仲間割れです。

富野さんは60年安保の年に大学生になったそうで、それで状況を身近で見てたそうですね。ただ深くは係わってないし、政治にも興味がなかったようです。ただ空気は感じ取っていたのでしょう。

その時は大して考えて無かったようですが、たぶんずっと後になって安保闘争の事とか考えたのでしょう。70年安保のあさま山荘事件がテレビで大々的にやったそうなので、その時に考え始めたのかもしれませんね。

とにかく仲間割れと言う状況を、どこかでおかしいと考えるようになったと思います。日本人が、アメリカがどうとか言いながら、結局日本人と戦い始めるのが安保闘争ですね。つまり内ゲバです。これはZガンダムでやっていたと思います。それをまたリーンの翼でやってましたね。

リーンの翼では直接的に分かりやすく、テロを起こす青年たちを出してましたね。こいつらが大した考えもなく遊び気分でテロ起こし、最後は核を持ち出し皆を殺そうとするおかしな奴らと言う描き方でした。これは安保闘争の過激派そのものですね。こういうおかしな奴らになるな、と言う事です。

迫水も仲間と戦う。夢の国住人も戦う。日本人もどっちに付くともなく戦う。アメリカ人もどっちについてるか分からない描き方でした。

一つは内ゲバはおかしい、と言う事です。皆段々訳が分からなくなり、悲劇が起きるというメッセージです。だからこそ、ごちゃごちゃしていて敵味方が分からない話なのです。実際の内ゲバはそうなると言う事です。その通りです。

迫水は最後に核で東京を消そうとします。しまいにこの位訳が分からなくなるものだと言う事です。これは大げさでしたが、まあ訳が分からなくなる事は間違いないと思います。

そして最後は迫水は同士討ちはおかしいと気が付く。始めの目標は違がった筈だと気が付く。「気が付け!」というメッセージです。

 

二次大戦の映像が出てきます。これは分かりやすいが、取って付けたように見えました。日本が被害者のように描くのはどうかと思いました。もちろん被害者でもあるのだが、それは片方で加害者でもありますからね。

ただ言いたい事は別だと後で分かる内容だったので良かったです。

この映像と重ねて、始めにテロを起こそうとした青年が、東京を破壊していく絵を映します。

つまり同じだと言いたいのです。安保闘争で日本人を攻撃しているのは、二次大戦中で日本が攻撃された事と同じだ、と言う事です。

二次大戦もアメリカに攻撃されたが、そういう状況を作りだしたのは日本人です。人種は関係なく、おかしな奴らがやる行為が日本を攻撃する事になる、と言う事かもしれません。

 

それとこの二次大戦中の映像の時、手が出せなかったですね。「起こった過去は変えられないのだ」と迫水は言う。

このセリフは良かったですね。過去は変えられないのです。起きた事はそのまま見つめて、認めて、そこからどうして行くかを考えるべきですね。

 

迫水はまだありますね。戦時中の生き残りです。それでアメリカと戦おうとするのです。しかしなぜか日本を攻撃しようとしましたね。これも安保そのものです。

戦時中の気持が残った呪いでもあるのが迫水です。

戦後日本の物語は何かと戦います。怪獣だったり宇宙からの侵略者だったりです。

それに戦艦ヤマトが宇宙に行ったりします。これらは何なのか?

これは戦いに負けたのがやはり辛かったのでしょう。しかしアメリカと戦い勝つのは間違ってると分かっていた。

なら今度こそ戦うべき相手と戦い、勝ちたいのだと思う。それで気が晴れるのです。

迫水もそうです。特攻で死ぬはずの男を生かし、夢の世界に行き、そこで戦い活躍して勝つと言う物語です。これも戦争の呪いであり、夢であり、逃げです。それが迫水であり、富野さん自身だったと言う事なのでしょう。

リーンの翼」は元々1983年から書かれた小説だったそうです。そして小説だと迫水は死ぬようです。この頃の富野さんらしい終わり方ですね。1985年にZガンダムですからね。

リーンの翼」アニメ版が2005年です。そしてここでは迫水が生きています。そしておかしくなっているのです。つまり迫水の描き方が変わった。富野さんの考えが変わったのでしょう。ちなみに映画版Zガンダムが2005年であり、これはカミーユが生き残る話です。富野さんが前を向き、少し上を向いたのでしょう。

迫水は顔に模様がある。それに口調も古臭い嘘っぽい演出ですね。これは古臭い昔のずれた感覚の人間だ、と言う事です。

1983年に作った迫水は、古臭い昔の妄想に取りつかれた人間だった、と気が付いた。それは富野さん自身の事でもあると気が付いたのです。

そして最後紙人形で自分自身を思い出す。昔も今も関係なく、正しい気持ちはあったのだ、と言う事です。それが人生色々ある中で、分からなくなって行くのが人だ、と言う事でもあります。

 

敵味方も、何が、誰が正しいのかも、分かりにくいアニメでした。

実際も、日本人、アメリカ人、男、女、青年、壮年、なんて関係ない。正しい人がいて、間違った人もいる、と言う事です。

だから、国がどうとかと一まとめにして枠組みを作り、どっちが正しいと争っているのは間違っていると言う事です。

その中で主人公っぽい人、エイサップ鈴木、彼がハーフなのもそのままですね。人種は関係ないのだと言う事です。手を取り合って生きて行くのだと言う事です。

ちなみに彼は主人公では無いですね。彼は進行役です。

では主人公は? やはり迫水ですかね? もしくは見てる人です。

最後皆は夢の世界に帰りますね。その中でエイサップは残る。富野さんはブレないですね。

しかしリュクスが残る。なぜだろう? と思ってたら消えていきました。ブレないです。

エイサップは現実で生きて行けと言う事です。これはアニメを見ている人達の事です。夢の世界で戦い、成功した迫水事富野さんはおかしくなったのです。治ったけどね。だから君らは現実で生きていけと言うのです。

リュクスは夢の住人です。アニメのヒロインでしかない。だから消えてなくなるのです。アニメは終わりだと言うのです。

ただそれでも富野作品で昔なら死んでた人達です。しかしエイサップは死なず、リュクスも消えていなくなるだけです。それが2005年です。劇場版Zガンダムの年なのです。せめて生きていてもいいだろう? と言う話のなったので、これは富野さんが前に進んだのだと思っています。

だからさっぱりしない終わり方でも許してください。これは見ている人を現実に戻す富野さんの思いなのです。

 

と、ここまでがこのアニメについての大事な話です。後はおまけです。

 

絵が綺麗で良かったですね。虫のオーラバトラーも良く出来てました。一般受けはしないでしょうけどね。

昔は虫なんかしか魅力的なクリーチャーはいなかったのだと思います。外骨格が格好いいですね。気持ち悪いのもいるけど、カブトムシなんかは格好いいと思う筈です。だから昔の人は、今の人より虫に興味があるのでしょう。

だから宮崎駿さんもナウシカを描くし、手塚治虫さんも虫が名に付くし、富野さんもダンバインを作るのでしょう。

ダンバインかこのリーンの翼ナウシカの影響が強いようですね。ナウシカで虫は自然であり触れてもいけない存在です。

しかし富野さんは兵器にして操りますね。何かここに性格が出てますね。やはり迫水なのですよ。

 

そしてナウシカと比べるからこそ宮崎さんのすごさが分かるのです。

ナウシカもそうだけど他の宮崎作品も世界観を描くのが上手い。世界を作っているのが宮崎駿さんですね。

キャラが走ったり動いたりして世界の広さを見せます。そしてキャラがいる向こう側にも世界が広がっている事を描きますね。だから臨場感があり、世界に没頭できるのです。そこにいるかのごとくです。

しかし富野さんは一枚絵です。説明ですね。これは小説に近いのかもしれません。あくまで小説の内容を絵で見せてるのです。

だからアニメと言うもので表現する力は、宮崎さんの方が優れている気がします。

逆に富野さんは小説も書くからか、実は内面世界ですね。言葉で説明できるものが主なのでしょう。

ガンダムとかリアル風な絵で見せているような作品ばかりなので勘違いしがちですが、内面世界であり考えが強いのが富野さんだと思います。だからこそ病んだのでしょう。

そして病んだしまうほど内面世界に溺れ、精神世界を描こうとする富野作品は面白いなと、年を取ってくると分かってくるのです。