号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

鳥を消す光と闇

アニメ映画「たまこラブストーリー」の感想です。ネタバレです。

 

「いや、よくやったよな」と言うのが感想です。

日常系アニメで、ヒロインに彼氏ができるリア充物語です。

でも結構高評価。意外とこの国も捨てた物じゃないかもしれませんね。

 

この映画が良く出来ていると言うので、我慢してテレビ版の方の「たまこまーけっと」を見ました。続けて見れないので(見てられないので)見終わるまで時間がかかりました。

たまこまーけっと」の方は日常系ですね。私が嫌いな日常系です。

なぜ嫌いか? たぶん普通の日常の事なのに、ファンタジーの様に皆がアニメで見て、喜んでいるこの世界が嫌いだからでしょう。

普通の日常がファンタジーなのです。ディストピアじゃあないですか。

海外のニュースで「2020年の十ヶ月のコロナでの死者より、10月の一ヶ月の自殺者の方が多い国だ」とありました。これが今の日本ですね。

ただ文句を言っても急に国は変えられないので、その中で生きて行かないといけません。だからファンタジーだとしても、その場限りな誤魔化しだとしても、このような日常系アニメがある事に否定はしません。何かで誤魔化し生きて行くのも人の道です。

ただ「サザエさん」も日常系ファンタジーじゃないですか。すでに私が子供の頃にはもう「サザエさん」はファンタジーだったのです。この国では何十年も前から普通の日常が、もうファンタジーだったのでは無いのですか? 何をしてきたのでしょう? もちろん他人事では無く自分も含めてです。だからこそ日常系が気に入らないのでしょう。

日常系アニメには、この国の心の闇が見えるので、私には気持ち悪いのです。

 

さて、さっき言った様に、だからと言って全否定ではありません。

日常系アニメも、ある程度の数はあっても良いのでしょう。

ではどの位か? 私が思うに「100%日常系アニメ」は100分の1もいらないかもしれません。せめて「90%日常系で10%は何か起こるようにする」とか「50%日常系で50%は違う」とするべきですね。

それは人気のあるアニメの多くは日常系では無いからです。それに日常系アニメの続きの映画版「たまこラブストーリー」が高評価なので、やはり100%日常系を求めている客は、思われてるより少ない筈だと分かるからです。

ちょっと客をなめているのでしょう。そこまで「何も起きない日常を眺めているだけしか出来ない人」は多くは無いのです。

皆「何かしないといけない」とか「前に進みたい」とは思っているのです。

 

たまこラブストーリー」がうけることで、この国にも可能性がある事は分かりました。

あとは「やり方」と「やれる事」を示す大人があらわれれば良いのですが、大人自体が分かってないので、今は無理でしょう。

それは今の大人の親が、子供に示せれなかったからです。これが戦後のこの国の一番失敗した事だと思いますが、どうでしょうか?

皆何も見えて無いから、同じ所をウロチョロしてどこにも行けないのでしょう。

 

さて説教臭い言葉ばかり言ってもなんなので、アニメの内容の事です。

たまこまーけっと」の方ですが、この「しゃべる鳥」いりますか?

これは「グーグーガンモ」ですね。つまり昔から、あまり意味のないキャラがいるアニメはあると言う事です。

でもそうなると、必要だから昔から出て来ると言う事ですね。

まず思う事が「始まりと終わりがはっきりする」と言う事です。この鳥が訪れた時期を描いた物語と言う事です。そうする事により何も起きない日常系に始まりと終わりが出来るのです。

しかしなら、もっとこの鳥が何かを起こすようにするべきだと思います。ドラえもんの様に何か特殊な道具をもってるとか、特殊能力でもあればやりやすいですね。

それが無かったとしても「部外者だから積極的に町や人の問題にずかずか入ってきて、問題をあぶりだす」とする事も出来たでしょう。

このアニメでそれをしないのは、あくまで「普通の生活から何一つ外れない」としたかったのだと思います。あくまでディストピアでのファンタジーアニメなのでしょう。

 

他にもまだこの鳥は必要があります。しゃべりますからね。つまり「この世界は嘘だよ」と言っているのです。

嘘だと始めから示す事により細かな嘘がどうでもよくなります。だから安心して見てられるとも言えます。「外国人なのに日本語しゃべるのか?」などはもちろん、細かな商店街の内情とかも嘘でいいのです。今の時代、なかなか上手く行ってる商店街も無いですからね。しかも仲良く近所づきあい出来ている良い世界も「こんな町ないよ、嘘だよ」と言う事すら考えるのが馬鹿らしくなるのが「しゃべる鳥」なのです。

見やすくはなるが、しかしあくまで「ファンタジーで嘘だよ」と言ってくる話には、やはり闇が見えますね。あっけらかんとしている雰囲気なのに、裏では現実的にどこか刺してくる作りです。それが「たまこラブストーリー」ではっきりします。面白いですね。

これは監督と脚本(シリーズ構成)が女性だからでしょうかね? どこかにリアルな感情が入る。男みたく夢の世界に逃げ切らないのです。

 

そして映画版「たまこラブストーリー」では嘘の象徴「しゃべる鳥」がいなくなります。「ここからはリアルにいきますよ」と言う事でしょう。

これはテレビから続けて見ると「嘘の世界に逃げている所から、現実の世界に戻れ」と言う作りになっています。ヒロインに彼氏ができる、夢の世界は終わりだと言うのです。

これは結構痛いですね。刺してきますね。日常系アニメなんて現実逃避で見てるのに、現実に戻れと言ってくる。のほほんとした見た目ですが「ウテナ」みたいなアニメです。

ネットで星五個で評価するサイトを見ると、星一つと言う最低評価を入れてくる人も結構いました。ただ思ったよりずっと少ない。世間の評価がもっと分かれるかな? と思っていました。もっと悪く言われると思ってたのに拍子抜けでした。

確かにヒロインがそこまで魅力的では無い描き方です。もっと媚びを売る作りにも出来た筈なのにです。それに男の方も情けないし、悪い奴でもない。それだからこそ、まだ応援できる作りなのは分かりますが、それでも他人の幸せです。それを評価できる世の中は、まだ捨てたものじゃないですね。

 

普通は皆は他人の不幸を喜ぶものです。ひかない程度の不幸です。他人の幸せなんか頭に来るだけですし、段々悲しくなってくるものです。だから喜べない。

それでも他人の幸せを喜べる時は、不幸だったのが改善された時です。死にかけてたのが助かったとか、ブスだが良い奴が結婚したとかです。

「美人のお金持ちが、美形の王子さまと結婚して幸せになりましたとさ」で誰が喜ぶのか?

でも実は喜ぶ時もある。それが自分にもあるだろうと思う時です。いつしか自分にも王子さまがあらわれると思える人は、他人の王子さまとの結婚も喜べるのです。

だとしたら、このアニメを評価できる人も「自分にもこの位の幸せはあるだろう」と思ってる人ですかね?

それが勘違いであっても、前を見れているので良い傾向だとは思います。前を見れてるうちは、可能性はありますから。

 

ただなんでも良い面と悪い面があります。

いつしかそれが違うと分かり、呪いを振りまき始め「魔女」にならないようには気を付けるべきです。

希望があるから絶望がでかい。そういう人が自殺しがちです。気を付けましょう。

 

そしてもっと細かな内容について。

ヒロインが好きだと言われ、好きだと分かりその思いを返す物語です。

その人生の一瞬を時間をかけてやる。よくやったなと思います。

人生にとったら一瞬です。それに人生で一回か、数回だけの事であり、後から思えば良くも悪くも強く光っていた時期です。

「光り輝いていた」と言うよりは「熱く燃え上がっていた」と覚えてる人の方が多いでしょうか? とにかく命を燃やしていた事を実感できる、人生の一瞬です。

他の事は入れず、そこだけに特化した映画です。だからこそブレない。よくやり切ったと褒めていい内容だったと思います。(上から目線では無くてね)

これが分からない人は、こう言う転げまわりたくなるような感情になる事が無かった人でしょう。それは良し悪しでは無く、そういう人だと言う事です。だからつまらない人がいても良いし、分からない人がいても良いのです。

 

物語の表の、的を絞り特化した作りは、良い意味で「よくやったな」と思う。

物語の裏の、日常系を刺してくる作りは、良い悪い含めて「よくやったな」と思います。