アニメ映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」感想です。ネタバレです。
原作漫画見てません。
これは人生の映画です。
戦争映画ではありません。
何かが起こると、その時に人の内面が出て来るものです。
人が死ぬと死について考える。生について考える。だから死に関する事が起きると、生死を考える物語になるのです。
食べ物が無いと食べ物のありがたさが分かる。
昔みたく、お見合いでよく知らない相手の所に嫁に行くと、結婚とは? と考える。
それらが詰まっていて、近い時代が戦時中になる訳です。
だから人生を語る為に戦時中にしているのであって、戦争映画では無いのです。
戦争映画を見たいのなら「はだしのゲン」とか「火垂るの墓」の方が良いですね。
ただこれらもある目線からの戦争です。全てには程遠いい。
戦争中はもっとひどい面もあったでしょう。戦地だとずっと酷かった筈です。日本人にとっても、日本人に酷い目にあわされた人にとっても。
ちょっと話がずれますが、日本は加害国ですね(違うと言う人もいるでしょうけど)。そして加害者も多くいた事でしょう。しかし多くの国民は被害者です。日本人のせいではあるけど、多くの日本人も被害者だった筈です。
その日本人の中の被害者の目線が「はだしのゲン」や「火垂るの墓」だと思います。だからこれらも加害者からの目線は無いので、戦争で言うと一部を表しただけですね。
そう見ると「この世界の片隅に」も戦争中の一部の町を表しているのだから、同じだと思います。ただ物語の主が戦争ではなくて人生ではありますけどね。
ちょっと戦時中笑ったりしてそこまで不幸そうでは無いですね。でも多くの田舎の人はこの位だったと思います。だから多くのそこまで不幸では無かった人達をリアルに表していると思います。たぶん多く見積もって日本での町の三分の一、少なくとも十分の一位の人は、この位の感覚だった筈です。
ネットでの感想を聞くと、この映画が気に入らない人もいますね。どの映画でも嫌いな人は必ずいるので、当たり前ではありますけど。
人生の映画なので、人生が浅いと無理ですね。分かる訳が無い。
私も若い時だったら何も感じなかったかもしれないな、とは思って見てました。
だから分からない人は年取ってからもう一度見てください。たぶん見え方が変わってくる筈です。その時は、自分や他人の人生が重なって見えてくるでしょう。
私には、映画での悪い人生も、良い人生も、普通の人生も、どれもつらくて見てられないですね。
戦時中のとてもつらい所を避けているので、逆に普通の感覚が残っている生活を表している。だからこそ今の時代の人でも乗れるのです。今の人の人生でも重なる所があり、分かる内容なのです。
ネットの感想で「絵にしたり妄想したり、現実から逃げるような、誤魔化すような感じの演出が嫌だった」みたいな事を言っている人がいました。現実から少し気持ちが逃げるぐらいじゃないと、生きてはいけない時もあるのです。戦時中ですし、全てを見つめては辛くて生きてはいけなのです。
「すずがのほほんとし過ぎている」みたいな感想もありました。これもそういう人じゃないと生きずらい時代もある。それにそう言う人が近くにいるからこそ、救われる周りの人もいるのです。
「最後の孤児が嘘っぽいし、その子だけ救っても何も解決しない」とありました。孤児もこの子だけでは無いのでしょうけど、それでもそれぞれが出来る範囲内の事をする。それで救われる子供が一人はできる。それ以外何が出来るのでしょう?
たぶんすずさん家が子だくさんなら、この子も救わないでしょう。だからこの子が救われるのもたまたまです。すずさん家が貧乏でもなく、まともなのもたまたまです。リンが遊女になったのもたまたまですし、戦争で亡くなったのもたまたま。義姉の子供が亡くなったのもたまたま。すずの旦那が戦争に行かなかったのもたまたまでしょう。すずの右手は無くなったけど生きてるも、たまたまなだけです。
そういうものです。良い悪いではなく、そういうものなのです。その中でどう生きるかが人生です。
たまたま生き残ったすず達に子供がいない。それに一人くらい子供を養う余裕はある。だからたまたま孤児を拾う。よかったね、でいいじゃないですか。
たまたまを良かったと言って、たまたま悪かった事はくよくよしないで、それでも生きていく。それしか出来ないのです。
それが人生、と言う物語です。