号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

彼方の夢の海上都市

アニメ「翠星のガルガンティア」の感想です。ネタバレです。

 

面白いですね。きちんと考えて作られていてスキが少ない。教科書通りな作りです。

しかしそれは逆に、尖った面白さも無いと言う事です。

尖った所は別に大きな謎とかトリックとかでもない、ただの人の感情でもいいのです。

感情に棘も無く、わちゃわちゃ面白楽しく生きて行けるかの様な世界です。

それは狙いでもあるのでしょうけど、本当に皆が望むリアル差加減はここなのか? とまた考えさせるアニメでした。なぜ「まどマギ」や「シュタインズ・ゲート」や宮崎駿作品がうけるのかを考えるべきですね。

 

人間味を持たない様に育てられた軍人が、人らしい暮らしの中で人になって行く物語です。

普通は数話で表すか、もしくは映画一本分だから100分位で表す所をワンクール使い表した作品ですね。ここは面白い要素なので長くしてほしいと思う所を、本当に長くした作品です。

しかしネットでの感想を見ると「もっと長くしてほしかった」と言う人が結構いました。いやかなり長くした方ですよ。

これはつまりこの世界が魅力的なので、もっと見ていたかったと言う事なのでしょう。

内容が日常系に近づいて行ってるので、そういう話だと思い見ている人が多かったのでしょうね。

ただ日常系にしてしまうと、見てくれる人より離れる人が多いので、この塩梅で丁度良かったと思います。多くの人には足りない位が丁度いいのです。

 

ここからの感想は、今まで他の作品で言った事を、もう一度言う様な内容です。

なぜか? それは作品自体が、何処かの作品の良い所を集めたようなものだからです。

でも基本はそれでいいと思います。それでもきっちり頑張れば、見れる作品になると言うお手本です。

でも欲を言えば、もっと上はあるだろう。つまり最高峰では無いと言う事です。

この作りで文句を言うのは酷だと思いますが、ネットで皆の意見を聞くと結構悪い所が出て来るので「皆の目が肥えてきたのだなあ」と実感します。

だからこれからは、これでも客がもう満足してくれないと言う事なので、より上を目指すべきですね。難しい時代ですね。でも面白くはあります。最高峰を目指す時代になってきたと言う事ですからね。

 

アニメは昔より見る人が限られてきています。アニメを見る人は「アニメを多く見てる人だけ」になってきてます。

だから「目が肥えてきた」と言うのは「昔からアニメであったような事を、やるアニメついて」と言う事になります。

一つは、やはりこのアニメは、今まであったアニメから集められた部品で出来ていると言う事です。だからこの内容では厳しい。

もう一つは「アニメであまりない内容の事だと、目が肥えてない」と言う事です。私個人の感想では、アニメで特にミステリーの内容だと、点数のつけ方があまいですね。

なんでこの内容で高得点なのだろう? と思うミステリー物がたまにあります。面白いミステリーをみたいのなら本読みましょうね。

他にもアニメ「サイコパス」等のような内容の、ハードな刑事ものっぽい作品もあまり無いからか点数があまいですね。

なんでも色々知ってる方が、人間としての視野は広がると思うので、実写ドラマでも映画でも面白そうなのは一度見た方が良いとは思います。

ただ見ているものが偏っているのは、個人の問題なので構いません。

しかし製作者側だとまた違います。視野が狭いと、作る作品の視野も狭くなります。

そしてこのアニメ「翠星のガルガンティア」は、アニメを元にアニメを作ってるので、視野が狭くなったのだと感じる訳です。

 

このアニメのリアル差加減、何かに似てるな? と思ったら「彼方のアストラ」に似てますね。

リアル差加減も、結構良く出来た物語の内容も、しかしどこかで見た事がある様な内容も、見てる時は面白いのに終わって見ると今一心に残らないのも、途中で水着回があるのも、とにかくよく似ていますね。

なぜか? たぶんどちらの作品も、他の作品の寄せ集めなのでしょう。二次創作になってしまっている。デフォルメしているものを元に、更にデフォルメしている。だから現実から離れすぎてしまい、どうしてもリアル差がない。触れれる感じがしない。そこに生きている感じがしないのです。

 

ガルガンチティアでは水上都市を描きたかったらしいからと、内容的に主人公が人間らしい生活が大事だと分かる物語なので、生活感を出そうと頑張っています。

しかし今一そこに「におい」が無いですね。惜しいですが、何が足りないのだろう? と思ってました。

そう思って見て頭に浮かぶ事があります。やはりこれらが上手いのは宮崎駿さんですね。そりゃそうでしょうけど。

漫画家の山田玲司さんがネット動画で「若おかみは小学生」の事を「えぐみが無い」といってました。だから「千と千代を見たくなる」とも言ってました。つまり宮崎駿さんほどのリアルさが無いのです。(若おかみは小学生の方は、わざとでもあるので、えぐみが無いのはしょうがない所があります。だから山田さんも悪いとは言わなかったのだと思います)

そしてこれを聞いて私は「なるほど」と感じました。ガルガンティアも、もちろんアストラも「えぐみが無い」のです。

 

例えば、世界はレモンの様な、グレープフルーツの様な、梅干しの様なものです。世界は甘くは無いのです。

「酸っぱすぎて子供が食べてくれない。なら酸っぱさを取ってしまおう」としてるのが昨今のアニメです。酸っぱさを取ってしまうともはやグレープフルーツでも梅干しでもない。つまりそれはもはや世界では無いのです。

でも酸っぱさを少なくするのはあってると思います。じゃないと食べてはくれない。

それが宮崎駿作品なのでしょう。あれだって別にリアルなだけでは無い。デフォルメされています。しかしえぐみを少し残す。酸っぱさを少し残す。だからこそ世界が嘘になりきらず「におい」と「あじ」が残るのだと思います。

つまり「子供も食べてくれるが、梅干しである事に留まっている物」それが宮崎駿作品であり、それを目指すべきでは無いでしょうか?

宮崎作品位のデフォルメなら、ガルガンティアやアストラでもありだったのでは無いでしょうか? そしてそれらはちゃんと一般うけもした筈です。

 

たぶん生きて来た時代も関係ありますが、宮崎駿さんは多くの事を現実からデフォルメするのでしょう。

そして最近のアニメ制作者は、子供の頃からアニメを見て来たからか、アニメからアニメを作ってしまう。嘘から更にデフォルメしてしまい、本物から遠ざかってしまうのです。

これは良くない傾向ですね。デフォルメではなく嘘になってきてるのです。現実を知ってる人には嘘と感じます。現実を知らない子供向けだから良いと言うのなら、それは子供だましです。子供だましはなんとなく伝わり、なんとなく皆にうけない作品になります。嘘と思ってしまったら見てられないのです。

 

ただ宮崎さんも、別に全てを上手く現実からデフォルメしてる訳では無いですね。主人公はこうあるべきだと言う考えからか? 現実でも良く分かってない女の子やイケメン男は、良い感じのデフォルメにはなってませんね。ちょっと現実から遠い物も中には入っていると言う事です。

つまり宮崎駿さんでも完璧では無いと言う事です。だからこそ難しいと分かる。これからは大変ですね。

 

大事なのは現実を知る事、ですね。

現実を知ってるからこそ、それをやりたい感じにデフォルメ出来るのです。

現実を見えている人だけが、そこから遠ざけたい距離に作品を置く事が出来るのでしょう。

 

この監督は海上都市を描きたかったようです。分かります。描きたくなるものですね。

でもこの海上都市、印象に残っていますか? 海っぽいですか? 都市っぽいですか? つまり海である必要、都市である必要がありましたか? 風の谷にある要塞だと成り立ちませんか?

作りは良く出来てます。気も使っている。でも印象に残らない。これでもダメなのですね。難しいものですね。