号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

体験型アトラクション風塹壕戦

映画「1917 命をかけた伝令」感想です。ネタバレです。

 

ワンカット風撮影で名を上げたそうですね。これはとっても力業です。今の時代だからこそ出来た気がします。

まず思うのが「ゲームぽいな」と言う事です。3DCGの三人称ゲームですね。主役を第三者から撮ったようなゲームです。

前から思っていたのが「臨場感はゲームの方が映画より上だな」と言う事です。だからこの映画は雰囲気や臨場感がゲームに近づいたと言う事です。

 

昔からの映画などではアップになったり、俯瞰になったり、時間がゆっくりになったりと盛り上げる為に色々します。

それはそれで盛り上がる訳ですが、本当はそんな訳ないのです。

リアルな世界はどこまでも自分からの目線だけであり、友達が刺されてもゆっくりにもならず、アップにもならず、盛り上がる音楽もかからないのです。

だからこの映画の手法の方がリアルさがあるのですね(この映画でも音楽は流れるけどね)。

無駄そうな歩く時間が長いのも本当っぽいですね。本当はもっとずっと歩く時間は長いのでしょうけど。

実際の歩く時間でそのまま描く事で、世界観が見えてきます。つまり世界の大きさや広さが感じられるのです。カットを割ってしまうと、その所しか見えず、世界の大きさが分かりずらくなります。実際に歩けばその歩いた広さがある事だけは理解できる。

しかしそれでいて、リアルな世界では一個人は何が起きているのか分からないものですね。戦争なら戦況はどうなっていて、自分が今どこで何をしてるのかは分からない。

例えば、3DCGの撃ち合ったりする戦争ゲームをしていて思うのが、自分の見えている所しか分からない事です。自分の周りは勝っているのに、チームが負けたりします。逆に自分の見てる範囲だと全然酷い有様なのに、敵に快勝したりします。だから本当は見えている以外の状況何て、何も分からないものです。

この映画でも友達が死んだ時、すぐ近くに仲間がいたと分かります。その後は敵の多い街に迷い込み、川で流され気が付いたら味方の陣地の近くまで来ている。まあ、ご都合主義ではありますが、自分の置かれている状況何て分からないという事です。自分から見えている範囲なんて、数十メートルか、数百メートルでしょう。見えている範囲には味方しかいなくても、その外側は大勢の敵に囲まれているかもしれず、そんな事は分からない。この辺の感じが良く出来てましたね。

 

ちなみに盛り上げるカットも音楽も、本当のリアルの世界には無いのですが、思い出は違いますね。思い出は脚色されます。

だから例えば仲間が撃たれた瞬間があったとして、その習慣スローになったり音楽が流れたりするのも、人の心の思い出だと思えば間違ってはいないのです。

盛り上げた方がそれらしく見えるのは、人の心の色眼鏡ごしで見てるからであり、否定もしないし嫌いでもありません。

 

もう一度言いますが、よくある3DCGのゲームは、リアルタイムでよりリアルな世界に感じられるわけです。

それに似た感じになっているので、この映画がよりリアルに感じられる作りになっている訳ですが、それならもっと臨場感を出す作りでも良かったかな? と思いました。

つまりゲームで言うと三人称ではなく一人称ゲームです。実際の人の目で見た感じの絵作りです。

一人称ゲームは自分の目からの映像なので、もちろん自分は見えないわけです。この方がより臨場感がでます。

逆にこの映画の絵だとどうしてもゲーム画面の様な気がしてきますね。スーパーマリオみたいに。この絵は誰からの目線だろう? と言う気がしてきます。

ただ最後の主人公が突撃する自軍を横に走る絵は良いですね。これは一人称だと感じが違ってきますので、これは三人称で良かったと思います。そうなると映画中に一人称と三人称を混ぜた絵になる訳で、それだと絵に一貫性がなくなるかな? とも思います。でも私は細かな事は気にしないで(完璧さを求めないで)、一人称と三人称の混ざった絵の方が良かった気がしますけどね。この映画は監督がゲーマーだったら違った絵になっていたと思います(ちなみに一人称のアメリカの映画もあるようです。名前は忘れましたけど)。

 

さて内容についても少し書きます。

ネットで感想を見ると「第一次大戦では数万人死ぬのも気にしないのだから、1600人ぐらい見捨てるだろ」と言うのがありました。でも1600人救うのに二人を送るだけだし、しかも多分たどり着けないと皆が言う任務です。だから一応やる事はやりましたなだけで、物語上はあってますよね? 上官が人の命を軽く見ている事にです。

外国の歴史家が見て、部隊の状況や行動がおかしいようですが、たぶん本当でも戦争がはじまり何年か経ってる頃だといい加減になってたと思います。二次大戦のドイツ軍でも思ったよりおかしかったようなので、一次大戦時なんてもっとずっといい加減だった気がします。特に前線だとね。

戦争の陰惨さがないですね。なにか軽い気がします。でもこれも一次大戦はあんなものだった気もします。二次大戦だともっと規模が大きくなり、しかも日本などの蛮族が係わっているのでもっと酷かったと思いますが、塹壕戦の一次大戦時はあんなものでしょう。

(ちなみに日本は蛮族か? 全体の割合ではそこまで多くはなかった気がしますが、割合で多くなくとも戦争に出た人数が多いので、酷い奴も多かった気がします。どんな酷い事したかは胸糞悪くなるのでここでは言いませんけど)

最後主人公が戦争を止める。でも大した事では無いという話ですね。一人が英雄的な事をやっても戦争は変えられないと言う事であり、あってますね。

それでも無駄死にする人を最低何人かは救ったのだから、それも物語としたら正解でしょう。

主人公は始めは嫌がっていた任務なのに、最後には仲間が突撃の所を無謀に横に走るシーンがありましたね。監督が狙っているとはいえ、やはり良いシーンですね。

それと同時に、言われたままに敵に突撃をしなくてはいけない自軍の悲惨さも出てるわけで、やはり良いシーンに見えてしまいます。ここでは盛り上げ過ぎない所もあってますね。英雄にしてしまうと嘘っぽくなりますからね。

 

全体としたら、心に残る名映画になるには何かが足りない気がします。

赤ちゃんのシーン、いりませんよね?(主役に家族を思い出させたいとしても、ちょっと取ってつけた感じがいなめない)

たぶん一年たてばあまり覚えては無いでしょう。

でもこんなアトラクション映画も、たまには良いのではないでしょうか?

私個人には、映画館でお金払って見ていても後悔しなかっただろう映画でした。