号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

今日も空が青いね。

私事で何ですが、小さい頃は曇りが好きでした。

と言っても消去法です。雨は流石に鬱陶しい。晴れは眩し過ぎて溶けてなくなってしまいそうに感じていました。だからましなのが曇りでした。

しかしいつの日か、空が晴れて青く見えると、とてもありがたく感じるようになっていました。

それはたぶん、もう眩し過ぎて溶けて消えてなくなってしまいそうだと、思わなくなっていたのです。

例えば、身内が死んだ時、自分の余命が少ないと診断された後、日陰の無い砂漠の真ん中でたたずんでいる時、そんな時なら晴れがありがたいとは思わないでしょう。

私は青い空がありがたいと思えている事自体に、ありがたいと思っていたのです。

つまり最高の状態ではないかもしれない。そればかりか少し悲しかったり辛かったりするかもしれない。でも最悪でもない。だからありがたいのだと感じる事が出来る。

まだ青い空を見ると、ありがたいと思う事が出来る。

今はありがたいと思える事に、ありがたいと思っているのです。

 

アニメ映画「空の青さを知る人よ」の感想です。

この題名でやられましたね。空の青さを知ってる人でないと、なかなかつけれない題名です。

井の中の蛙、大海を知らず、されど空の青さを知る」と言うことわざから取った題名だそうですね。そして「空の青さを知る」の所は後の世代が付けた、後付けですね。

意味は「大海は知らないけど、あまり他に物が無い小さな所だったので、唯一そこから見える空の青さは外の蛙より知っている」と言うような所らしいですね。

別に大海を知っている蛙でも、空の青さも知っているのです。しかし空の青さのありがたさは、井戸の中の蛙の方が知っている。

外の世界で生きている蛙には、青い空も景色の一つでしょう。しかし、暗い井戸の中から見上げると、唯一見える丸く輝く青い空。井戸の中だからこそ、そのありがたさに気が付くのです。

なので「井戸の中の蛙が空の青さを知る」とは「空の青さのありがたさを知っている」と言う事では無いでしょうか?

 

どの物語でもそうですが、その中に乗れる要素があると、面白いと思う訳です。

この物語は「夢を追って挑戦したが挫折した大人」の物語です。ここがメインですね。だからいい年の大人でないと、つまらないかもしれませんね。

主人公あおいは、挫折した大人の子供の頃を思い起こす役です。だからこの子の成長と挫折の物語の様に見えてそうでは無いですね。あくまで大人が「子供の頃はこんなだったよなあ」と思える役でしかない。だからこの子の演奏シーンが最後無いのです。

そして「しんの」の役ですが、これはそのまま子供の頃の気持ちですね。大人になるとそれを忘れがちになりますが、それを思い出させる役です。

面白いのは、ファンタジーでは無いと「大人が昔の思い出から自分を取り戻す」話になります。それを分かりやすく「子供の頃の自分自体を出し、子供の時と今の自分をぶつける」と言う手法を取っていますね。分かりやすく面白いですね。

ただこの辺の事が上手く出来てたかな? と言うとどうでしょうね? もっと盛り上がりそうな所なのに、今一昔の自分と今の自分が話す所が、弱かった気がします。どっちも言葉が弱かった印象です。

 

主人公の姉、あれも今一いい子過ぎますよね? いい子過ぎるとリアルさが消えていきます。

せめて妹に「嫌いだ」みたく言われた時に「私だって色々やりたい事だってあった」位言い返しても良かった気がしますけどね。

 

最後「しんの」が空を飛んだのは、まあいいんじゃないでしょうか? 閉じこもって動けなくなったものが解放されて、気持ちが空も飛べるようになった事を、象徴的に表したと思えば。

そして現在の「しんのすけ」の方も走り出すわけです。これも「現在の自分も走り出した」と言う事で、あっているのですが、どうもここも弱いですね。

ただ頭にきて追っかけてる様に見える所が残念です。もう少し貯めて盛り上げて「お前が飛べるようになったのなら、俺だって走ってやるからな」と走り出す。このおじさんが走り出す事も、しんのが空を飛べる事と同じぐ位盛り上げないと、いけない気がします。

 

「しんの」はあの時動けなくなって取り残された気持ちですね。

それを「しんのすけ」は置いてきてしまった。(と同時にギターに閉じ込めた)

置いてきたのが姉のあかねへの気持ちですね。

だから「しんのすけ」が姉をあきらめないと決めた時に「しんの」は消えていくのです。

ただここも弱いですね。なんで車の中で走ってる最中に消えていくのでしょうね? 必要以上に盛り上げたくなかったのかもしれませんけど、何か「考えるのをあきらめた」ように見えるのです。

 

どうも全体的に何か足りないな、と思える物語でしたね。ネットでの感想も、そういう意見が多かったように見えました。もう一アイデアと、細かな感情に気を使う一頑張り出きるまで粘れば、名作と呼ばれたかもしれませんね。

ただ大枠でいったら良さそうなアイディアでした。「あの花」「心が叫びたがってるんだ。」の後だとしたら、目指す内容も良いと思います。「予期せぬ事故による子供のトラウマの物語(あの花)」から「もっと一般的によくありそうな子供のトラウマの物語(ここさけ)」になり「大人になり得た新たな問題に向き合う物語(空青)」になってます。

「空の青さのありがたさを知ってる人なら、人生は成功も失敗もあるけど、何とか最後は笑って生きていけますよ」と言う物語だったと思います。

 

 

2020年7月10日、追加 

 

ちょっと話がずれますが、一応言っといた方が良いと思った事を言っときます。

もう少しで名作だったかもと言いましたが、じゃあお前は出来たのか? と言われても出来ないでしょう。

誰なら出来たんだ? と言われたら誰か出来る人はいる気はしますが、もしかしたら誰も出来ないかもしれません。

つまり出来た物に後から文句を言うのは簡単です。

しかし足りない物は足りないのです。それは事実です。

例え今は誰も出来ない事であっても、将来の為に足りない物は足りないと理解しておく事が大事です。

将来の為にならないのなら、出来た物に文句を言ってもしょうがないのですからね。