号漫浪正大

輪るピングドラム ~物語を見直す

深海の巨大生物あらわる!

アニメ「東のエデン」を見ました。ネタバレ、感想です。批判です。

これを見てみると、「天気の子」と「残響のテロル」と「キャッチャーインザライ」と「NHKスペシャル深海の巨大生物」とイクニさんの事が頭に浮かんできたので、その事を書きます。

 

この感じを一枚の絵として捕らえてみます。

 

ライ麦畑で子供たちがはしゃいで遊んでいます。数千人もです。

近くには崖があるが、背丈の低い子供には麦の穂に隠れて見えません。だから危険です。

近くに一人だけ大人の男がいる。こんな危険な所で子供たちを遊ばせてるのだから、危ない男です。

しかし良く見るとそこまでおかしな奴でもなさそうだ。気が付けば、崖から落ちそうな子供を救おうとはしているらしい。

ただ数千人もいるので全てを見てはいられない。あっちこっちの崖から子供が落ちて行ってるように見える。

つまり、この大人の男は子供たちを見てはいないのだ。子供が喜んでいる顔を見てるのか? 子供が遊ぶ風景を見てるのか? もしくはこんな事をしている自分自身を自己満足として見てるのだろう。

なんにせよ、男の心は子供を見てはいない。だから背丈が低く前が見えてない子供たちを、こんな崖のある危険な場所で遊ばせて、喜んでいるのだろう。

ふっと、崖の向こうを見てみる。崖の向こうは深い海らしい。なので子供が落ちてもすぐには死なないで済みそうだ。

海にはピンクの大きな大王イカがいる。

このイカが落ちてきた子供を、すました顔して鼻歌交じりで溺れる前に拾い上げ、陸に戻しているようだ。

 

狙った訳でもないのに「天気の子」の後に「東のエデン」を見てしまった。そしたら同じように「キャッチャーインザライ」が出てきましたね。呪いですかね?

なんで回転木馬なのか? と思っていたら、わざわざ映画版で雨の中回転木馬を主人公は見てましたね。「キャッチャーインザライ」で主人公がやってた事と同じです。

つまり「天気の子」と同じモチーフであり、同じように間違ってるように感じる物語でした。

どっちもテロの事を連想させる作りでしたね。

そしてテロものとして「残響のテロル」も同じ作りだと感じる訳です。

この三つのアニメ、リアル路線の作りであり、リアルな東京の街を描きますね。そしてどれも中二病なわけです。中二病でリアルな東京を描くときは、テロを起こしたくなるのでしょうか? もしくは映画「パトレイバー2」の影響でしょうかね?

東のエデン」の作者(監督)は押井さんの影響がある人らしいですね。だからかこの人も、一応テロを褒めない様に気にはしているようです。なので最後まで見るとそこまで変な人では無いと分かる内容です。それは「天気の子」と「残響のテロル」の時もそうでした。そこまでおかしな人達では無いのでしょう。

でも私はダメだと思います。子供を惑わせ騙す物語に見えるからです。

 

中二病って言い方、良く考えると面白いですね。

つまり年のせいだと言うのです。皆、中二に一度はなるのだから、多かれ少なかれそんな風になる時があるでしょ? と言うのです。意外と優しい言葉ですね。

私は「天気の子」の感想文を書いてて気が付いたのは「私は思ったより頭にきてるのだな」と言う事でした。文にしてみて初めて自分の心に気が付く、そんな事もあるのですね。でもなぜだろう? と思いました。なぜ怒ってるのか?

それは「私も昔はこの程度の感覚で生きてたよな」と気が付いたのです。若い時は東京を海に沈めたくなるのです。同じように中二病だったのでしょう。中二よりもっと大きくなった後でもです。だから「あまり大きく文句を言いたくはないな」と気持ちでは思っている事に気が付いた。でもだからこそですね。だからこそ気に食わない。「これは違う」と今は分かったからです。子供を惑わせ騙す事はしてはいけない。

結局は、昔の自分がそこにそのまま留まってる様に見えるから、気に食わなかったのだなと気が付いたのです。これはどんなに魅力的でも違う、やってはいけない、と言いたくなるのです。たぶん他人にも、昔の自分にもです。だから頭に来たのでしょう。

 

細かな事を言うと、中二病が悪いのではない。

悪いのは嘘の所です。「子供を惑わす嘘を言うな」と言う事です。

良い嘘と悪い嘘、これは微妙なので最後は感覚の問題です。だからなんて説明すれば良いのか悩んでましたが、「東のエデン」で分かりやすいネタがありましたね。

王子様を夢見る、今の生活が気に入らないヒロインが良く考えず、今あったばかりの魅力的に感じる主人公にホイホイ付いて行くじゃないですか。これが悪い嘘ですよね? 都合よく運命的に王子様に出会い、つまらない自分の人生を変えてくれる、分かりやすい惑わす嘘でしたね。実際やったら、このヒロインは殺されて埋められてお終いですよね?

「アニメなのだから別に勘違いしないよ」と言う人がいますね。そうだと思います。しかしそう頭では分かっていても、少し背中を押すのです。リアルに描かれた作品で、惑わす魅力的な嘘は子供の背中を押すのです。そして何人かは崖から落ちていくのです。

今の子供は頭では王子様なんていないと分かってはいるのです。でも人は「もしかしたらこの人だけは本物の王子様なんじゃ?」と思ってしまう生き物なのです。そう思いませんか? 本当に、魅力的なあったばかりのイケメンに付いて行く子供はいませんか? 「東のエデン」は背中を押していませんか?

「キャッチャーインザライ」の主人公と同じです。子供を救いたいと言いながら、崖から子供が落ちていく原因を作ってるのは誰ですか? 

いつまでも世間に文句を言ってるだけでいい子供ではない、いつかは大人になるのです。

「キャッチャーインザライ」はインチキを言う大人に文句を言う物語ではなかったですか? 今は誰がインチキを言ってる大人になったのでしょう?

 

面白いのは、「東のエデン」は今の時代に王子様復活の物語でしたね。そしてイクニさんは「ウテナ」で幻の嘘の王子様問題に切りつけたそうですね。

そしてイクニさんは「異化効果」の人ですね。私は、なんでここまで異化効果にこだわるのだろう? と思ってました。

そして出した答えは、富野さんと同じ流れを違う方法でやったのでは無いのか? と言う事です。富野さんがやってたのは「アニメばかり見てるな」と言う事だと思います。だからアニメの最後キャラを皆殺していき、その世界に留まらせない様にしたのでしょう。

しかしそれはおかしいと気が付いたイクニさんは(富野さん自身も気がつたと思いますが)違う方法をとった。それが異化効果だったのでは無いでしょうか?

「異化効果」はつまり同化させないと言う事です。この夢の世界と同化して、これが本当の世界の様に感じない様に、この世界が当たり前だと思わない様に、人生の全てではないと思うように、そしてここに留まらずここから出ていけるようにする為の、一つの方法だったのでは無いでしょうか?

まあ、そうは思ったのですが、実は「そこまでする必要はないのではないだろうか?」と私は思ってたのです。それはやりすぎであり、子供あつかいし過ぎでは無いのかと。

しかし「残響のテロル」「東のエデン」「天気の子」に「君の名は」も含めたこれらを見て感じ方が変わりました。このアニメらがどれも同化させようとする物語です。リアルな東京を見せ、勘違いさせるのを狙ってる作りだからです。勘違いさせ酔わせ惑わす物語に見えるからです。そして実際見てみると(良く出来てるからこそ)確かに子供なら勘違いするかも知れないと感じました。

だから異化効果で距離を置く作りの、イクニさんのやり方が正しいのでは無いのか? と思えてきました。

 

勘違いさせない作りなら構わないと思います。「北斗の拳」「あられちゃん」「ワンピース」「ドラえもん」等です。これらに同化した所で真似は出来ないからです。

しかし「東のエデン」みたくおかしな男に付いて行く事は真似できます。だから危険なのです。

そしてだからリアルな生活の中での話になりがちな物語を、異化効果で表すイクニさんは、やはりあってると思うのです。

ちなみに「ガンダム」は同化しにくいのだから、富野さんは気にし過ぎだと思いますけどね。

 

「キャッチャーインザライ」は読んでないのですが、ネットで内容を見ていくだけでも、どうも良く出来た作品な気がしてきました。

この主人公が言うのが「例えば、自分は子供達を麦畑で遊ばせておいて、そこから崖に落ちていきそうな子供を見付けて捕らえる、そんな人になりたい」と言う事です。

ここは本当に良く出来てますね。

言ってる事が漠然とした夢でしかない、だから子供なのです。

それに「崖から落ちそうな子供をキャッチする」と言っても、そもそもそこで遊ばせているのがおかしい事です。どこがおかしいかが分かっていない子供です。

それにこの「子供をキャッチする自分」と言うのは「危ない自分をキャッチして欲しかった」と言う表れではないのか? とネットなどで言われているようですが、まあそうでしょう。でもそうであっても「自分は救われなかったけど、誰かを救いたい」とも取れ、良い奴なのかな? と思わせる作りです。

それと同時に「良い奴に見られたい」「誰かの役に立つ意味のある人だと思われたい」「自分の存在は無駄だと思いたくない」等の自分の為に、他人の為になる事をしたいだけの奴、とも受け取れます。

それに「ちょっと変に聞こえるかもかもしれないけど」と言ってからキャッチャーになりたいと言う所も、漠然とした夢でしかないとも、分かっている男だと思える作りです。

このシーンの前に、男はこの町から出て行って馬鹿なふりして黙って静かに暮らそうと思ったらしいですね。「社会に復讐を」なんて言い出さない、本当はおかしくない奴にも聞こえるシーンです。

子供なので不完全であるし、考えもまとまってもいないのだが、思ってる事は純粋である。しかし、やり方が分からない。

それに何がしたいのかも分からないのだが、ここで妹に自分の漠然とした夢を話す事で、自分自身に本当の願いをなんとなく分からせるシーンなのです。

そして回転木馬に乗っている妹を見守っていると、幸せが感じられる。「あれ? この今妹を見守ってる自分が本当にしたかった事だったのではないのか? こんな近くに、しかも手が届く所に、幸せと自分の存在価値があったのでは無いのか?」と気が付くシーンです。

だからこの男は家に帰っていくのです。

もちろんそんなに簡単に人は変わらないのだから、これでこの男が自分を見付け幸せになる訳ではないのでしょう。だから物語の始め「病院で男がこの話を思い出す」と言う話なのですね。もちろん病院に入ってるはっきりした理由は書いてないようですが、逆に言うと死んでもいないし、社会と離れて隠れて暮らしてるわけでもないと言う事です。病院に入れられたり色々あるけど、そうやって少しづつ自分を見付け生きていく、それが人生。そして生きて行けばその向こうに、幸せが少しづつだがあるかもしれないと言う話です。

 

さて、なぜこの内容なのにテロを起こす人たちはこぞって「キャッチャーインザライ」を読むのでしょうね?

そしてなぜテロを起こす物語を作る人達も「キャッチャーインザライ」を参考にするのでしょう? 分かってますか?

東のエデン」は暴力的なテロには反対のようです。しかしじゃあなぜ学生運動を思い起こす話にするのか? それは暴力的な反抗はいけないが、社会に対する反抗はやるべきだ、と言う事なのでしょう。

でもね。表向きはそういう事だろうけど、私にはそう見えないのですよ。

戦争を知らない子供達、団塊の世代。その学生運動のほとんどはただの祭りを騒いでただけです。あの時は力なき子供だったが、今はどうでしょう? 団塊の世代こそこの国の権力者の年頃でしょう。で、今は何をしてるのか? 何をしてるのでしょうね? 何かしてるようには見えませんけどね。そうであれば、やはりあの時の学生運動はただの祭りだったのです。理由を付け騒いでただけなのでしょう。

東のエデン」も表向きは理想があっても、裏では面白おかしく騒いでいる様に見えるのです。上の世代の騒ぎに乗れなかった少し下の世代の監督は「俺もあの祭りに参加したかったな」と思って作ってる様に、私には見えるのです。どうでしょうか?

私は親の世代が団塊の世代だからか、団塊の世代学生運動が大っ嫌いです。戦争が終わって生まれて、学生運動で騒いで、バブルで踊って踊らせて、世間に借金をたくさん作り死んでいこうとしています。いったい何をしてきたのでしょうね?

そして良く考えず祭りに参加して学生運動をしていた人達と、このアニメ達は同じ匂いがするのです。理由を付けお立ち台で踊りたいのでしょ? と勘ぐってしまいますね。

(6月14日追加、監督はもう少し下の世代でしたね。でもあさま山荘事件をテレビで子供時代見てた記憶があると思います。そしてバブルの時大人になり、それに乗って楽しく生きていけると思ってたらその後バブル崩壊です。餌を受け取り、その後とられる世代です。そして世界を変えるのか? と思われてた頃のテロも知っていて、それに憧れが出てきてしまう。あの学生運動は間違ってたけど、やり方さえ当ってれば、と思ってしまうのでしょう。そうすれば今もまだお立ち台で踊ってられた、と思ってる様に見えるわけです。餌を直接もらえなかったもう少し下の私たちの世代は(実は子供の頃に恩家は受けてるのでしょうけど)バブルに呪いしか感じない。それに、何か変えるのか? と思わせる学生運動がテレビで流されるのも見てないので、あれも呪いにしか見えないのです)

 

エデンは楽園ですね。

そして禁断の知恵の樹の実を食べると追放されるのです。

善悪の知恵を得た者はエデンにはいられないのです。

逆に言うと、神から善悪の知恵を持ってない者だけがいられると約束された楽園が、エデンなのです。

確かに「東のエデン」はエデンですね。

(6月15日追加、映画版二作目がパラダイスロストなので、最後楽園を追放され皆が知恵を得た、としたかったんだと思います。だからエデンの東ではなく東のエデンであり、違うエデンにたどり着いたと言う事なのでしょう。しかし私には檻から出され、違う檻に入れられたように見えます。無知の檻です)

 

そんな世の中でも希望はあります。

異化効果の大王、ピンクの大王イカが海の深い所で人知れず頑張ってましたね。

イカは人から見ると良く分からない生き物で、足も沢山あり不気味です。何考えてるか分かりませんね。

でも大王イカは目は良いそうです。深海でもかすかな光を逃さない様に目を大きく発達させてるようです。かすかな物も見ようと努力してます。

それにふにゃふにゃしてるようでタコと違い、背筋がピンとしていてしっかり芯が通ってますね。

かえるくんは地下で大ミミズと人知れず戦ってましたが、大王イカことイクニさんは海の深い所で、同化させ惑わす王子様と戦ってたようです。

王子様と大王イカ、何が味方で、何か本物なのか? 考えてみてください、と言う話でした。